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2017.08.24
お盆休みを利用した東北旅行で、かねてから行ってみたかった伊藤豊雄氏設計の仙台メディアテークを、ようやく訪れることが出来ました。 東日本大震災で打撃を受けた内装も復旧されており、お盆休みの最中の土曜日でしたが、仙台市民の皆さんが気軽に立ち寄れる図書館やアートギャラリーなどを含む複合的公共施設として、朝から賑わっていました。
1階ロビー越に仙台市のメインスストリート定禅寺通りのけやき並木が望めます。
何と言っても特徴的なのは構造形式です。一見するところ柱も梁も見当たりません。柱の役割を果たしているのは、白い鋼管トラスでつくったチューブ状の独立シャフトです。平面的にアットランダムな位置に合計13本が配置されていて、チューブの中身はエレベーターや階段、設備シャフト等、各階を縦につなげる用途としてそれぞれが利用されています。チューブの最上部からは空からの光が降り注ぐという斬新な構造体です。 床はと言うと、梁の無い鉄骨フラットスラブ(ハニカムスラブ)というもので、鋼板のサンドイッチ構造となっているので、フラットな天井が伸びやかに広がっています。 このまるで樹木のようなチューブ状のシャフトとフラットな天井の他には、壁や仕切り等はほとんど無い空間。それは、伊藤豊雄氏の言葉を借りれば、「公園のように、自分の好きな場所を選んで自由に過ごすことが出来る空間」です。チューブの中の黒い部分は設備シャフトとなっています。
1階ロビーにあるカフェスペース。中央が盛り上がったテーブルがユニークです。
このチューブの中には階段が納められています。
2階~4階は仙台市民図書館となっており、開館前からたくさんの市民の皆さんが列をつくっていました。写真撮影に興じていると、昨年の富山のキラリに引き続き、ここでも図書館の係りの方に呼び止められ、1階の受付で写真撮影の許可を受けてくださいとの事。急いで1階の受付まで降りて、カウンター内の女性に「すみません。写真撮影の許可をいただけますか~。実はもうたくさん撮っちゃったんですけどねぇ・・」と御願いすると、女性は私をとがめることもなく、ただ「アッハッハッハ~」と高笑いしながら、注意事項を書いた紙と撮影許可のバッチを手渡してくれました。富山のキラリに比べてずいぶんと大らかな対応に、昨年同様少しだけムッとしかけていた気持ちが和らぎ(笑)、以後は心置きなく撮影に励むことが出来ました。(もちろん一般の方々に不快感を与えるような撮り方はしていませんので念のため)フラットな天井と白いチューブの空間に開架式の本棚が並ぶ様は圧巻。
天井から吊り下げられた照明器具が天井を照らし、柔らかな光に満たされます。
こちらはエレベーターのあるチューブの出入り口。
この建物で唯一の原色である、チューブを囲む家具の鮮やかな赤が眼に飛び込んできます。
外周は透明な皮膜で覆われています。
1階へと下るエスカレーター。正面ガラスの向こうには定禅寺通りが見えます。
これ以上ないくらいに明快なコンセプトと、それを可能にする確かな技術力。このユニークな構造設計を担当したのは佐々木睦朗さんという構造家。構造設計者はあまり表に出ることは少ないのですが、この建築での佐々木氏の役割はとても大きくて、建築を創り上げていく上で、意匠と構造の理想的なコラボレーションがここに実現していると言えます。 コンペで選ばれたこのメディアテークですが、当初はクライアントである仙台市に理解してもらうのはたいへんだったようです。チューブ状の柱はフロアの邪魔になる、効率が悪いなどとずいぶん非難されたとの事。ところが工事が進んで建築が形になり始めると、役所の方も施工会社も反応が変わってきて、「今まで見たことのない新しいものを自分たちはつくっているんだ」という自負心が生まれ、つくることを共有できるようになったそうです。つまり建築はコミュニケーションの場を提供するのではなく、建築をつくることそのものがコミュニケーションであり、そこにコミュニケーション空間があるのだ(PHP新書:日本語の建築-伊藤豊雄著-より)と伊藤氏は述べています。 特に東日本大震災を経験した以後の設計作業で、自主的にワークショップ等を開催するなどして、その建築に関わる地域の皆さんの意見に耳を傾け、垣根の無いコミュニケーションの中から、みんなで一緒に建築を創り上げていくことに意義を見出そうとする伊藤建築の原点が、この仙台メディアテークにあるように思いました。