佐川美術館ーガウディ―とサグラダファミリア展ー探訪

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2023.10.30

ガウディ―とサグラダ・ファミリア展が開催されている佐川美術館、久しぶりの探訪でした。 静逸な水盤と共に佇む端正な2棟の切妻。どこをとっても完璧で一部のスキも無いと言って良いこの建物は、私のような浅学の徒はむしろ気後れするぐらいではありますが、いつ訪れても心が洗われる気がします。 ガウディ―の展示の方もたいへん興味深いものでしたが、残念ながら撮影禁止でしたので、今回は、余計な説明を抜きにして、外観と中庭を中心に美しい写真のみ紹介します。                                                                                          

<了>

               

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Live at DOORS in HEAVEN

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2023.09.16

  この日(令和5年9月16日)は高校同窓会の幹事が集う実行委員会。オフィスでの同窓会案内の発送準備作業等を無事に終え、6人で同級生が出演予定のライブBarへと向かいました。 オフィスのある清水谷町から上町筋まで出たものの、地下鉄を使うのにはちょっと中途半端、タクシーもすぐにつかまりそうにないので、少し時間もある事だし、空堀商店街を通ってぶらぶら歩いていこうか、と言うことになりました   。

  商店街を抜けて谷町筋に出たところで、一番早く飲みたがっていたY君が、タクシーがちょうど2台やってくるのを見つけ、すかさず手を挙げると、うまい具合に2台続けて停まってくれました。      
    すっかりウォーキングモードになっていた残りの5人でしたが、まあ早くビールにありつけるのもいいか!となり、3人ずつに分乗してライブ会場に向かうことに。もちろんワンメーターで、タクシーの運転手さんのご機嫌はあまり良ろしくなさそうです(笑)。 グルメなKさんと、この辺りの美味しいお店の話などをしている内に、あっという間に現地到着です。    
  その店DOORS in HEAVENは、地下鉄長堀橋と日本橋の間、堺筋から少しだけ西に入った八幡筋沿いの雑居ビルにありました。お店は6階となっていましたが、ちょうど6人乗りのエレベーターに乗り込むと5階までしかありません。よく見ると6階のお店にはもう1階階段で上がってください、という貼り紙が。いわゆるペントハウス?ひょっとしてあとから付け足したのかな?などとブツブツ言いながら、エレベーターを降りて階段を上がり、閉鎖的な木のドアを開けて中に入ります。お店の名前の通りドアの向こうは天国か、と思うと、ちょっと一人では入るのに勇気が要る感じですが、まあBarなんてそんなもの。   中に入ると既にライブが始まっており、20~30人くらいのキャパの、こじんまりした良い感じのお店です。音楽の機材も揃っています。 ふと見ると、知った顔が一人、在校中はM君と同じクラブだったK君でした。 すぐに「田中さんですか?」と声をかけてくれたのがこの日の主役、M君。在校中は彼と殆ど接点が無かったのですが、24期ホームページをきっかけとした再会(出会い?)が嬉しかった。お店のカウンターで各自ドリンクを注文してから、演奏に耳を傾けます。ライブは何組かのバンドが出演していましたが、各バンドに共通のメンバーもいるようでした。ベースの方が曲の合間のMCを担当されており、「話長いんですけど、、」で始まる自然体でリラックスしたトークが場を和ませてくれます。   お店に入って小一時間ほど経ったころ、いよいよM君のバンドRoots Ubies の登場。この日は8月9日に亡くなったザ・バンドのリーダーでギタリスト、ロビーロバートソンの追悼ライブとのことで、ロビーが作詞作曲したザ・バンドの楽曲中心の演奏。M君はステージの真ん中で、ギター&ヴォーカルの熱演です。ザ・バンドの曲はどれも独特のグルーブ感を持っていて心に響きますが、曲調としては渋くて地味な曲も多く、カバーするのは結構難しいと思うのですが、M君をはじめRoots Ubiesの皆さんは、どのパートもしっかり自分のものにされています。やはり好きこそものの上手なりと言うところでしょうか。写真に写っていないのが残念ですが、ドラムの方などは、風貌からしてザ・バンドのリヴォン・ヘルムになりきっているかのようでした。 (バンド名Roots Ubiesの由来についてはUbiesを逆さから読んで想像してみて下さい)    
  実行委員の皆はと言えば、かって大塚善章さんに教えを受けたこともあるPさん、退職後にサックスを始めたY君、ロックミュージックには縁がないと言いながら飲み食い目当てで付き合ってくれたN君、それぞれ身を乗り出して聴き入っています。WEB担当のSさんはスマホでLIVEの撮影に余念がなく、Kさんはといえば、今日は静かに最後列のベンチ席でゆったり楽しんでいる様子。    
    Roots UbiesのラストはいよいよこのBlogで紹介したこともあるThe Weight。 ザ・バンドーかって僕らは兄弟だった   M君から一緒にステージに上がって3番の歌詞を唄わないか?と誘われたのですが、もう何十年も音楽活動からは遠ざかっている身につき、いやいやとてもとても(笑)、、ということで丁重にご辞退申し上げ、ここは動画撮影に専念することにしました。やはりThe Weightは人気曲で、ギターのイントロのリフが始まっただけで、会場が盛り上がります。     https://youtu.be/rHqNUKnY6Vw?si=F2GDTOtEAtU58NlQ     会場であるDOORS in HEAVENはチャージが1,000円、ドリンクもフードも概ね各々600円程度で、リーズナブルに生の演奏が楽しめるお店。 ライブバー ドアーズ イン ヘブンLive & Drink Doors in Heaven 演奏が無事終わったM君と少し音楽談義などしているうちに、この日最後のバンドが登場。新たなギター&ヴォーカルの方も加わり、憂歌団の曲をはじめとしたブルースナンバーを何曲か聴かせてくれました。個人的には学生時代に黒人ブルースにのめり込んでいたせいもあり、特にこの日最後の曲 Stormy Monday を聴いていると学生時代の思い出がよみがえり、思わず涙腺が緩みそうになるほどでした。   久しぶりに生で懐かしい音楽に浸れた、良い夜でした。 やはり、M君のように、いくつになっても好きなことを続けること、そして一緒に続けられる仲間がいるのは、何より素晴らしいことです。 もちろん、かって好きだったことを再開するも良し、全く新しいことに挑戦してみるのもまた良し。   もうではなく、まだまだ古希や! そう自分に言い聞かせながら、HEAVEN から UKIYOへのドアを、思い切って開けてみました。  

<了>

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熊野古道なかへち美術館

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2023.08.14

    台風7号が日本のお盆を直撃する前の休日、今日しかないな!と思い立ち、南方熊楠記念館と並んで和歌山で一度は訪れて見たかった熊野古道なかへち美術館へ。 大阪から、紀の川サービスエリアで茶そばと天ぷらのランチタイムと、この時期にしては意外と軽めの道路渋滞をはさんで、のんびりドライブすること4時間あまり。   熊野本宮へと続く山間の道路沿いの一画に忽然と現れたガラスと鋼板で出来たシンプルな箱たち。高さを抑えたフラットルーフ平屋のファサードは、周囲の景観を決して損なうことはなく、ごく自然にこの歴史ある場所と折り合いを付けたかのように佇んでいました。 1998年築の25年目。一度の改修工事を経たとはいえ、外装カラー鋼板のペコつきと色褪せ、外壁と屋根の簡素な取り合い部分の錆と汚れ、内部のホールへと続く天井裏への雨漏りの痕跡等々、歳月の流れを感じさせる箇所がいくつか見受けられました。 地方の小さな公共の美術館でありながら(いやそうであるからこそ。。)当時の新進気鋭の建築家(これが最初に手掛けた美術館。今や世界的に活躍されています)を起用して生まれた優れた建築ですが、一方でこの種の建築の維持管理の難しさを感じさせられました。   建築というものは、その場所との折り合いをつけると同時に、その先に続く永い歳月との折り合いをいかにつけていくか。。という事も大切です。 関西の大先輩建築家、出江寛氏の「古美る」という言葉が思い起こされます。       受付のあるロビーからエントランス方向を望む。わずかに彎曲する壁面が来訪者を展示室へと誘います。 ここで少し気になったことが2つ。一つはガラス面に半分だけ降ろされたロールスクリーン。この時間は直射日光の差し込みもないので、出来る限りガラス面は開放してすっきりさせたいところ・・ もう一つは、このガラス面に固定された展示のためのホワイトボード。このボードに貼り付けられた展示ポスターのサイズが、正方形のホワイトボードと合っておらず、だらしなく紙が下にはみ出してしまっている・・ 細かいことばかりですが、こういった部分にしっかりと神経が行き届いていれば、その建築を大事に思う発注者の気持ちが伝わってきて、設計に携わるものとしては(自分の設計したものでなくても)ほっこり嬉しい気持ちになるのですが。。やや残念。 というか、こんなことが気になってしまい、純粋に肝心の展示を楽しめないのは設計を生業とする者の性か・・むしろそっちの方が残念なのかも。     上の写真は、この美術館で設計者の展示会が開催された時のパンフレット。よくよく見ないと読めない せじまかずよ という細長いたてがきのサインがかわいい。      

ガラスのコーナーに設置されたアート作品。外の景色が借景となっています

          このロビー(交流スペースと名付けられています)はいかにも妹島さんらしい空間。ツヤのある壁面のパネルが外の景色をほのかに映し出しています。地域の皆さんも含めた交流の場としても考えられているそうです。     真っ白な空間に白いテーブルと原色のチェアー。オレンジの入ったTシャツが映えそうだったので思わず自撮り(蛇足でした)      

壁面に穿たれた空調の吹き出し口

     

ロビー(交流スペース)から見えるのどかな川沿いの景観

       

屋外に置かれたアート作品

      ロビー(交流スペース)の外観。5枚ある天井までのパネルは扉になっていて外部に開く仕掛け。ちょっと大層な印象ですが、川沿いの屋外スペースから自由に出入りできるような配慮か。。排煙口(火災時の煙の排出口)を兼ねているのかも知れません。 、    

左側の突出したグレーの箱が展示品の搬入口とストックヤードになっています

     

中央の曲面の壁の中は機械室。右側に突き出している箱の中はトイレ

        建築の基本的な構成としては、中央に矩形の展示室を設け、ガラス貼の回廊がその周りに設けられていて、来訪者は外部の景色を眺めながら自由に巡れるようになっています。その回廊につながる一番眺めの良い川沿いの一画が上で紹介した交流スペースというわけです。 ガラスの回廊は、それ自体が展示ギャラリーのようにも使える一方で、貴重な作品のある展示室と外部空間とのバッファゾーンとしての役割もありそうです。 そして展示や回廊以外に美術館として必要な機能である、事務室・トイレ・機械室・作品の搬入口とストックヤードは、各々が独立した棟で出来ています。 それらの棟は、回廊のガラスと対比させたカラー鋼板貼で、一つ一つが突出した形状で本体の回廊に取り付いています。 俯瞰的にプランを見るのとは異なり、予備知識なく訪れた来訪者は、建物の外周をぐるりと回ってみて初めて全体構成が分かるわけですが、エントランス横の事務室の棟は、アプローチ側からの視線に対して広角で設けられていて、来訪者の視線を受け止めるような構成になっています(上の写真)。   歴史ある熊野古道の山間にアートを通した地域交流の拠点としてつくられたこの美術館。設計者の個性を表した斬新な建築ではあるけれど、簡素なディテールを用いながらボリュームを押さえて各部を分節し、周囲の自然の中に埋め込まれたその佇まいに気取りや威圧感などは無く、誰もが普段着でぶらりと立ち寄ることが出来そうな施設となっていました。   若かりし設計者の想いの入ったこの建物がこれからも大切に使われ続け、地域の人々や熊野古道を訪れる人々にもっともっと親しまれればいいな、と思いながら帰路につきました。  

<了>

   

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国立京都国際会館 Open Day

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2023.06.14

  大谷幸夫氏設計のモダニズム建築である国立京都国際会館。会議などのイベントの無い時に、ロビーやカフェ、レストラン等が一般公開されています。この日は運よく休日の土曜日だったこともあり、ゆっくりと見学することが出来ました。上の写真はメインエントランス側の外観。この建築が只者ではない雰囲気を漂わせながら来訪者を迎えてくれます。       メインエントランスからロビーへ向かう両側にくの字型の壁面を持った長い通路。台形と逆台形をモチーフに造形されているこの建物を象徴するかのように、重ね合わせた両手でやさしく来訪者を包み込むような空間です。トップサイドライトからの柔らかい光が、小叩き仕上げの上部コンクリート壁面を際立たせています。           全体の面積の7割を占めるというロビー空間。国際会議場として、様々なシチュエーションでロビー活動の舞台となることが想定されています      

日本庭園に面したテラス席もあるカフェテリア

     

V字型柱のディテイル。アート作品と一体になっています

   

   

   

 

日本庭園側から見た外観

   

   

 

剣持勇氏デザインの六角形チェアのあるロビーからカフェテリア方向を望む

   

   

   

   

   

 

村野藤吾設計の宝ヶ池プリンスホテルに隣接しています

   

 

ニューホールは、モダンでシンプルな 佇まいです

 

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プログレ弦楽四重奏

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2023.06.08

   

磯崎新氏設計の京都北山にある京都コンサートホールでの音楽会

   

  1階ホールを取り巻くスロープをゆっくりと昇って演奏会場であるアンサンブルホールムラタに向かいます。  

 

演奏会のあるアンサンブルホールムラタ前のホワイエ

 

    さて、弦楽四重奏であるこの演奏会のプログラムには、ハイドン、ショスタコーヴィチときて、休憩後の演目には、キングクリムゾン、ピンクフロイド、エマーソン・レイク&パーマーと言った1960年後半から1970代半ば頃に流行したプログレッシブロックのアーティスト名が並びます。       弦楽四重奏でロック? 私が10年以上前から注目しているこのモルゴーア・クァルテットの4人組は、それぞれがクラシックの世界で活躍する一流の演奏家達。元々はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を演奏するために1992年に結成されたそうですが、メンバーの一人である荒井英治氏のプログレ愛が高じて、プログレの名曲をレパートリーに加えるようになりました。 ショスタコーヴィチとプログレ、もっと言えばクラシックとプログレは、まあ何となく親和性がありそうですが、弦楽器の4器だけでロック、それも複雑なリズムや音調・音階を持ったプログレを演ろうというのは、無謀な試みと言っても過言ではありません。しかしながらこの4人組は見事にそれをやり遂げとげています。    

まさに4人だけのシンプルなステージセッティング

    上の画像はモルゴーア・クァルテットの3枚のCD。1枚目の「21世紀の精神正常者たち」と2枚目の「原子心母の危機」は彼らのサイン入りです。 ・キングクリムゾン ・ピンクフロイド ・イエス ・エマーソン・レイク・&パーマー ・ジェネシス などいずれもプログレの大御所達の名曲ばかり。 CDのジャケットデザインやタイトルもウィットに富んでいて、クラシック畑の人たちがこんなCDだすのか~と嬉しくなります。   ともあれ百聞は一見にしかず。   YouTube から拝借した映像で、彼らの熱演を体感してみてください!     ついでに過去のBlogから、キングクリムゾンのコンサートレポートはこちら。

46年目のキングクリムゾン

 

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六甲枝垂れ

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2023.05.27

  六甲山の展望台にある六甲枝垂れ。建築後13年が経ってこの地にしっかり根付き、現在は「シダレミュージアム」として若手アーティストの作品とのコラボレーションが楽しめます。        

展望台へのアプローチ

          六甲山の自然を体現したと言えるこの建物は、冬場には雨水をためて氷を作って建物下部の氷室にストック。夏場は冷気を氷室から建物内部の「風室」に取り入れて上部から排出することで、自然な換気による涼風が体験できます。              

アーティスト達の紹介パンフとその作品たち

     

建物内の「風穴」から望む山の新緑

        段々畑のようなひな壇に冬場は雨水を溜め、氷をつくる。氷室にストックされた氷は夏場訪れる人に、自然エネルギーを利用した涼を提供する。。過去に六甲の水が神戸で販売されていたことから着想されたという、この場所で建築を通して自然を循環させるアイデア。      

神戸と大阪の街への眺望。(夜は百万ドルの夜景に)

     

見晴らしの塔やテラス、カフェ等があるイングリッシュ・コッテージガーデンを望む

      展望塔を覆うフレームには吉野ヒノキのチップが装着されていて、冬場の条件が整ったときには樹氷が見られます。      

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白浜・南方熊楠記念館 探訪

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2023.04.11

南紀白浜にある南方熊楠記念館。とある秋の休日、思い立って奈良市内の自宅から車を飛ばして昼過ぎに到着。 番所山公園のある白浜半島の高台に位置する2017年築の新館は、うっそうとした緑に覆われた石段を昇った先に、周辺の樹木と対話するかのようにたたずんでいました。       8か所のコンクリート打ち放しの半アーチとスレンダーな丸柱で支えられた1階ホールは、周囲の緑をが内部空間に浸潤する開放的な空間。2階の展示室エリアは一転して、柔らかく彎曲する白い壁で覆われた閉鎖的な空間となっています。奥には耐震改修を終えた本館があり、2階の展望ブリッジでこの新館と接続されています。     限られた敷地の中で、本館の耐震改修工事のための進入路にもなるピロティ―空間を確保しながら、周りの樹木や地形に沿い、この場の自然環境を損なうことの無いように配慮されたやさしい佇まいです。    

本館への1階の動線となるピロティ―。天井に周囲の景色が映りこんでいます

 

  ピロティ―の奥にある本館との接続部分。2階レベルで本館に繋がるブリッジ。半アーチと丸柱で支えられています。本館の前には既存を残したと思われる植栽が新旧の建物に寄り添うように立っています。  

  本館2階に展示されていた模型。右奥の60年代の典型的なモダニズム建築である本館は登録有形文化財に指定されています。この本館に対比して曲線主体の有機的な造形の新館は、周辺のコンテクストに馴染んで、この地にふさわしい新たな風景を生み出しているのがよくわかります。  

  上の写真は同じく本館2階、この建物の設計責任者で2016年に逝去された小嶋一浩氏の作品年表と、ガラスケースの中には複数の建築賞の賞状や受賞記念のトロフィー、及び設計主旨などをまとめたプレゼン資料が展示されています。完成した建物が設計者の優れた業績としてきちんと評価がなされ、こういったかたちで特別に展示コーナーが設けられていたことは、私達同業者としては、少しうらやましいけれど。。たいへん嬉しいことでもあり、大いに励みになりました。  

  1階ロビーの様子。休日なのにほとんど来訪者がいないのは寂しい。周囲の自然を室内に浸潤させることを意図した設計者の思惑とは裏腹に開口部の前にもパネルなどが並べられ、その他のグッズや什器等も比較的無造作に配置されていて、設計者によって注意深く造りこまれたこの空間が、やや雑然とした印象になっていたのは少し残念でした。     上の写真は1階ロビーにある案内板。新館と本館の関係、屋上からの光を取り込む大きなランタンや、館内で流れている2種類の音楽について説明されています。  

  内部空間の見せ場でもあるこの大きなランタンは、テキスタイルデザイナーの作品。屋上からの光の筒の中を、円筒状に蔦がからまって降りてきているかのようなイメージです。ランタンは細く割いたテープ状の細い生地(布)を編んでつくられており、よく見ると、何と一枚一枚の布には熊楠が書いた文字やイラストなどが転写されています。1階は周囲の緑が身近にある分やや光が入りにくいことから、屋上に設けたトップサイドライトから2階の展示室を円筒状にくりぬいて光を取り入れようという建築家の意図と、その円筒の中に南方の膨大な手作業の痕跡を一枚一枚に取り込んだ布で丁寧につくりこまれたランタンを吊るす。。というデザイナーの着想が合わさって、この南方熊楠記念館ならではの印象的な場となっています。しばし傍にたたずんで、この不思議なランタンの中を降りてくる柔らかな光を眺めていると、モノづくりの楽しさが伝わってきます。       1階ロビーから2階への階段。高さを抑えた窓から緑が垣間見え、抑え込んだ光が木の床を印象的に照らし、上部のスリットからの効果的な間接照明によって柔らかい曲面の壁が際立つ。上手いです!     2階の本館への通路でもある展望ブリッジ。横長の窓からは海を見晴らす広大な景色が望まれ、窓際のデスクでは関連資料が閲覧できます。右側の壁面には南方が出資者にあてた自筆の履歴書がはめ込まれています。これが圧巻でした。     彫りこまれた壁面の下段が、南方自筆の何と長さ8m近くにも及ぶ履歴書。受け取った方は、さぞぶったまげたことでしょう(笑)。この辺りが南方の真骨頂でしょうか、、物事に対する尋常ならざる集中力と徹底ぶりがうかがえます。     上の写真、下段が南方自筆のコピーですが、南方のような集中力に欠ける私には、ほぼ判読不可能でした(笑)。上段はその翻訳?としての説明書き。いやはや、これはこれで労作です。     2階の常設展示室側からみた展望ブリッジの様子です。常設展示室は残念ながら撮影不可でしたが、1階ロビーや展望ブリッジとは対照的に閉鎖的な空間で、丁寧な展示を見て多彩な南方ワールドが堪能できました。尚、1階ロビーの案内板にも書かれていましたが、館内を流れるパーカッション奏者による音楽は2種類あって、この常設展示室入口のガラス扉を境に分かれています(上の右側の写真)。この展示室の入口(陰と陽の境でもあります)に立つと、2つの音楽が交じり合ってもう一つの音楽が聴こえるという趣向です。美術館などでよくある作品解説をヘッドフォンで聞くのもいいですが、館内を流れる静かな音楽に心をゆだねながら、自分のペースで思い思いに展示や建築を楽しむのが、この記念館には合っているように思いました。そういう意味では来訪者が少ないのも良いことかも知れませんね。     上の写真左は展望ブリッジからの眺めです。写真右は本館側から見た展望ブリッジ。もしこの壁面のカーブが無かったら、もう少し単調で固い廊下になっていたように思います。      

さて、もう一つに楽しみは新館屋上からの雄大な景色です。

   

円月島がすぐ傍に見えます

    南方にちなんだと思われるキノコ型の庇と、これも何かのメタファーかな?と思わせるベンチが楽しい。    

本館の円筒状の階段室が見えます

   

一番高いところにある展望台からの眺め。かなりの強風でした。

    これが下階に光を届けるトップサイドライト。ランタンの上部は白い生地(布)でできています。天井にはランタンの周囲に照明が埋め込まれているので、おそらく夜間は灯台のように明かりが灯るのだと思います。上部に突き出たガーゴイルと床の雨落しは、1960年代のモダニズム建築である本館の円筒状階段室のデザインが踏襲されているようです。       私は南方熊楠については、恥ずかしながらほとんど予備知識もなくこの建物を訪れました。様々な展示を通して、始めて南方が残した業績の一端に触れることができましたが、そのフィールドの広さと深さにただただ驚嘆するばかりで、まだまだこの異能の才人を充分に理解できたとは思えません。今後も多くの研究者によってさらに検証されていくことでしょう。   ただこの南方熊楠記念館はそういった予備知識のあるなしに関わらず、周囲の自然環境に沿った良質な建築空間を体験しながら、訪れる人それぞれがゆっくりと南方ワールドを楽しめる施設となっています。   上の写真は南方マンダラの説明ですが、「森羅万象の相関関係」を示した絵図です。「この世界は因果関係が交錯し、さらにそれがお互いに連鎖して世界の現象となって現れている」。この絵図をプリントしたTシャツも販売されていました。このマンダラから着想を得て、この絵図を描いた展示室の入口のガラス扉が開いた瞬間に2つの音楽が交じりあって新たな3曲目が生まれる。。という音楽家独自のアイデアが生まれました。様々なジャンルにおいて南方が残した独自の世界観に基づく綿密な研究や社会活動の記録は、テキスタイルデザイナーが光の筒の中のランタンを創作したように、それを受けとる側各々の感性を刺激して新たな発想やアイデアを生み出すきっかけとなり、あるいは南方が自然保護の活動で示したように己の信念に基づいて行動する勇気を与えてくれるのかも知れません。   (2021年10月10日 田中啓文)

<了>

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大阪中之島美術館探訪

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2023.01.07

  m2022年の年末から2023年の年始まで、興味深い2つの展覧会が同時開催されている大阪中之島美術館を初めて訪れました。     これまでは、仕事の途中に近くを通りがかった時、黒く大きなボックスを見上げながら、仕事仲間と「結構色むらあるな~」、「縦目地のパネル割が大きなALC版みたいに見えへんか~」、「隣の国立国際美術館のステンレスフレームのオブジェが映えるように、黒い箱にしたんとちがうか~」等々、創った人の苦労もかえりみず、好き勝手なことを言って楽しんでいました。   今回初めて館内に入って、久々に大阪に良い建築が出来たな~と感心しました。 (公開コンペで選ばれた設計者が大阪人でないのは、やや残念ではありますが・・) 1~5階までパッサージュが立体的に繋がる内部空間は秀逸です。    

4階パッサージュからの見下ろし

          交差する2本のエスカレーターはメインフロアの2階から展示空間のある4階まで架け渡されており、各々昇り(行き)と下り(帰り)の一筆書きの動線となっています。 来訪者は、展示のある4階を見上げてワクワクしながら、エスカレーターで昇っていきます。    

4階の展示空間の途中にある休憩ロビーがアイストップになっています

    パッサージュ4階天井の一部をくりぬき、5階を貫くトップライトから凝縮した自然光がふりそそぎます。天井に架け渡されているチューブ作品は、今回の「GUTAI-分化と統合」の特別展示。   4階と5階はそれぞれ別の展示スペースで、エスカレーター(昇りのみ)、エレベーター、階段の3種類の動線が用意されています。  

4~5階をつなぐ階段。踊り場には人のオブジェ

   

4~5階のパッサージュの様子。左側にガラス貼りのエレベーター

   

黒いボックスをくり抜くガラス窓から見る中之島の都市景観。建物の一つ一つはしっかり造られているが、全体の景観としてはやや雑多な印象         5階のパッサージュはシンプルな長方形平面で、両端にガラス窓。光天井のデイテールがやや無骨な気がしましたが、言うは易し、行うは難し。   展示鑑賞後の来訪者は、展示の余韻を楽しみながら、下りのエスカレーターから眼下に広がる立体的なパッサージュを人が行きかう景色を眺め、ゆっくりと降りていくというシチュエーション。ここがこの美術館一番の見せ場。さながら建物の中に小さな都市が内包されているようで、訪れる人にとって最も印象的な場面です(下の写真)。   下りエスカレーターからの眺め。視線は否が応でも下を向きます。右側に2階チケット売り場、左側に1階への階段。交差する昇りのエスカレーターが右端に見えます。下階1~2階の吹き抜けも、眼下にまたぎながら2階に到着。    

隣接する国立国際美術館エントランスゲートのステンレスパイプと、大阪市立科学館

      メインフロアー2階は、誰でも自由にくつろげる広々とした空間。設計上は、展示室だけではなく各階のパッサージュでも、展示や催し等に対応できるようになっているそうです。 今後はこの豊かなパッサージュ空間がより有効に利用されることを期待したいです。 今回は、展示のある4階以上の階に行くためには、この2階にあるチケットコーナーで鑑賞券を購入しないといけなかったのですが、おしむらくは(管理上の工夫が必要であるとはいえ)、1階から5階までのパッサージュを来訪者が自由に行き来できるようになれば、より都市に開いた公共性のある美術館になることでしょう。    

ショップエリアと、ホールのある1階のパッサージュ。車寄せのある駐車場にもつながります

   

ショップエリアのインテリアショップとレストランは、街路からも直接アクセスできます

   

ヤノべケンジ作・巨大な猫の彫刻と、照明のオブジェがある芝生広場。

      芝生広場から見る黒いボックスが浮遊しているように見えるファーサード。2階は建物外周の三方が全面ガラス貼りとなっていて、ショップのある1階と合わせて、敷地周辺との連続性が意図されています。   シンボリックなステンレスパイプのエントランスゲートから入場する隣接の国立国際美術館は、直下の地下1階がショップやレストランのあるパブリックゾーンとなっており、「都市に開かれた美術館(新建築誌2004年5月号)」として、2004年に開館しています。しかしながら、建物の殆どが地下にあるせいもあり、展示を見るために訪れる人々以外の誰もが気軽に立ち寄りたくなる美術館にはなっていないように思います。 それから18年を経て、ようやく開館したこの大阪中之島美術館。前述のように、1階・2階の都市との連続性が、内部の吹き抜けと立体的パッサージュによって、展示室のある4階・5階までつながり、より開かれた美術館であることは間違いありません。 国立国際美術館とも歩行者デッキで結ばれる予定とのことなので、国と市の2つの美術館が互いに連携しあい、大阪を代表する中之島の地で市民や観光客が気軽に集える文化的スポットとして、ますます発展して行って欲しいものです。  

(了)

         

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人=人生=建築 ユイイツムニの家

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2022.09.30

  建築家 石井修さんの娘さんで、中学・高校の先輩(最近知りました)でもある石井智子さんの著書「人=人生=建築 ユイイツムニの家」を、柳々堂さんの紹介で拝読させていただきました。 父のDNAを受けついで設計活動をされている著者が、人がいきいきと暮らす空間としての家はどうあるべきかを、写真とエッセイで綴った一冊。   自ら石井修さんの自邸である「回帰草案」で暮らした経験をふまえて、尊敬する父の言葉も引用しながら、緑豊かな外部の自然と一体化する空間で生活することの大切さ・素晴らしさが、著者 の人柄を感じさせるような飾り気のない素直な言葉で語られています。 建築家の文章によくある難解な表現は一切無いので、誰にも分かりやすく読みすすむことが出来て、読了後はほっこりした暖かい気持ちになれます。   この本が教えてくれる(建築家が)家をつくるにあたって大切なことは。。 ・その場の環境をしっかりと捉えて、外部空間との好ましい関係を構築すること ・そこで暮らすそれぞれの家族にとって最も相応しい家とはどうあるべきか、を考え尽くすこと ・生活する中で、手に触れるもの、目に触れるものを、細部まで丁寧にデザインすること ・周囲の風景を決してこわすことのない建築(中途半端な外面であれば見えない方が良い!)であること   それらがしっかり実践できた時に初めて「ユイイツムニの家」が出来るのだ!と。   久しぶりに建築というものの原点を思い起こさせてもらった気がします。 建築を志す若い学生さんにもぜひ手に取って欲しい本だと思いました。          

樹々に埋もれた回帰草案の外観

     

回帰草案へのアプローチ

     

中庭からガラス窓越しに見上げた風景

     

回帰草案の断面図。敷地の傾斜に沿って建てられている

     

緑豊かな外部が垣間見える廊下。左側が中庭の緑

     

2本の丸太の柱がある約8.1m角のリビング

      造り付けの8人掛けのテーブルと椅子のあるダイニング。ここが石井修さんを囲む家族の語らいの場であったという       著者設計「伊賀の家」の緑豊かな中庭。壁・屋根がガラスの渡り廊下と木製サッシュに囲まれている  

(了)

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アマン京都

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2022.08.31

  建築家ケニーヒルの遺作、アマン京都を少しだけ見学する機会がありました。鷹峯の森の中に悠然と点在する寡黙な建築群。        

正門の前でセキュリティーガードの監視(笑)を受けながらのワンショット

」    

右手に見えるのがアライバルパビリオン。宿泊者はまずここでチェックイン

     

後ろのリビングパビリオンの中身はレストラン

         

庭に面したレストランの内観

     

レストラン前のテラスにある苔むした石が圧巻

         

ケニーヒルガーデンと命名された庭は見事に整備されていました

        敷地の中を散策できるのは、宿泊者限定。時間と費用が許されるならば。。いつかはゆっくり何泊か滞在してみたいと思える希少なホテルでした。

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