新国立競技場コンペ応募案公開!

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2015.12.17

新国立競技場仕切り直しコンペの応募案が公開されました。これまで報じられていた通り応募は2者のみ。A案(下の画像)が隈研吾さん+大成建設、B案(上の画像)が伊東豊雄さん+竹中工務店グループの提案です。ちなみにお蔵入りとなってしまったザハ案はこんな感じでした。     計画白紙撤回の後、工期とコストを何がなんでも遵守しなければならないために、設計と工事を合わせたコンペとされ、かつ、今後極めて短期間の内に設計から工事までまとめ上げるためには、これまでこのプロジェクトに関わったアドバンテージが無ければ現実的に難しい事などの理由により、結果的に上記の2者の一騎打ちとなりました。オリンピックのメインスタジアムのコンペとしては実に寂しい限りですが、これまでの事業者の迷走の末に、ここまで追い込まれてしまった結果、予想されたことですし、もう今となってはやむを得ないことと思わざるを得ません。しかし選択肢は限られているとはいえ、予め上記のように案が一般公開され、しかも2者だけの比較ですから、ある意味、短期間でわかりやすい議論が出来るのではないでしょうか。 技術提案書も全て公開されているので中身をざっと拝見しましたが、これだけの膨大な提案書をこの短期間でまとめ上げた2者の力量と情熱には本当に脱帽です。 上の画像で見るように、前回のザハ案とは大きく印象は異なりますね。ザハ案には、一見したところの強烈な個性とインパクトがあります。では今回提案された2者の案はコストと工期を重視するあまり、ザハ案に比すれば凡庸な提案なんでしょうか。私は決してそうは思いません。      A案                  B案   2案共、工事費はほぼ上限に近い1500億円弱。この金額が果たして妥当なのかどうか、今の私には正確に判断することはできませんが、少なくとも今の厳しい労務事情の中、極めてタイトな工期と予算を踏まえた上で、各々のチームが英知を絞り、この国家的プロジェクトを成功に導くために最善を尽くした結果であることは、充分に伝わってくるのです。では、どちらの案がよりふさわしいのか。ズバリ、私の個人的な意見は…断トツでB案です。 B案は驚くほどシンプルですが、優れてモニュメンタルなシンボル性を持っていると思います。屋根を支える72本の木造の柱が、整然と並び、白磁のように美しく仕上げられたすり鉢状の観覧席の背面との間に、回廊空間が設けられています。その姿はオリンピックという祝祭空間にふさわしく力強い神殿のような佇まいで、極めて日本的です。(チームの技術提案書には、縄文時代の遺跡に範を取った旨が記載されています) この1.5メートル角の木造柱が整然と並ぶ様を、早く見てみたい気にさせられるのです。ここでは、詳しく書ききれませんが、伊東豊雄さんらしさも随所に感じられます。 一方のA案は、スタジアム内の天井に木材をふんだんに用い、外観に多重に回した庇の上げ裏には、隈研吾さんらしく木製ルーバーが設えられています。いわば、たいへんわかりやすい和風のデザインと言えるでしょう。また、庇の先端上部は緑化されて神宮の緑との一体化が図られています。しかし、私にはどこか既視感があり、正直なところ、はっとする独創性のようなものはあまり感じられませんでした。幾重にも庇の重なった外観も、B案の力強く簡潔な外観に比すると、ややもすると猥雑に見えてしまうのです。 以上は、あくまでも、私の第一印象にすぎず、もちろん今後様々な角度から、総合的に比較検証されなければいけないのは言うまでもありません。年末まで充分に議論が尽くされた結果、私の個人的な直感が叶うようなら、たいへん嬉しいのですが.......。

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UR名作団地のリニューアル

UR住吉団地外観

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2015.10.23

  住吉大社にほど近いUR住吉団地、1階エントランス廻りのリニューアル設計を私の事務所で手掛けました。40年以上も前に建てられたこの団地ですが、今でも決して古さを感じさせない斬新な外観をしています。垂直線を強調したエレベータコア廻り、周到にディテールやプロポーションが考慮され、繊細な和のテイストを感じさせる分節されたバルコニー等、隅々までこだわったデザインは、独自の存在感を放っていて、数多いUR団地の中でも指折りの名作といえるでしょう。          この団地のもう一つの特徴は、1階の全てが、壁のないピロティー空間となっていることです。そのために1階のエントランスや自転車置場は、外部と一体化して、各棟ごとに分断されずに互いに繋がり、見通しも良く開放的で明るい空間となっているのです。        改修前の1 階は上の写真のような状態でした。グランドレベルには、自転車置場とメールコーナーが、そこから少し上がった位置にエントランスとエレベータホールがあります。エントランス廻りには、外観とは対照的に曲線をモチーフとしたたまり場のようなスペースが設けられていたのですが、あまり利用されていませんでした。一方、グランドレベルの方は自転車の台数が大変多く、メールコーナーと同じレベルのため、たがいに干渉し合っていささか雑然とした印象になっていました。 そこで、現状のピロティー空間の伸びやかさを生かしながら、メールコーナーをエントランスと同じレベルに上げて再構築、柱や壁面の素材も一新して、エントランス廻りのバリューアップを図りつつ、自転車置場スペースも広げる計画となりました。                     メールボックスは、白い大理石で造ったフレームの中にしっかりと組み込みました。フレームの下部に設えた隠し照明によって、既存の床と対比させています。 独立柱は、凹凸のあるボーダータイルで仕上げ、柱上部に新たに設けた照明ボックスからの間接光が効果的に見えるよう配慮しています。

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新国立競技場仕切り直しのプロポーザル

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2015.09.26

計画白紙撤回後、大幅にスペックを見直した上で実施された公募型プロポーザルの参加登録が、9月18日に締め切られました。コストや工程が重要課題とされ、建設企業も含めた今回のプロポーザルに応募したのは、わずかに2グループのみという結果。見直し前の計画でスタジアム部分の施工が決まっており、作業員や資材の手配をすでに進めていた事や、かって旧国立競技場の施工も手がけた経緯もあって、本件の受注に並々ならぬ意欲を示している大成建設グループに、同じく元の計画で屋根部分の工事を担当する予定だった竹中工務店が、清水建設と大林組の大手2社とタックを組んで挑む構図となりました。大成グループの設計は、元の計画でも参画していた梓設計と隈研吾氏、竹中グループには、同じく元の計画に関わった日本設計に伊東豊雄氏が加わっています。元のコンペにもシンプルで明快な案で応募されていた伊東豊雄氏は、ザハ案に異をとなえ、旧競技場を残した改修計画を独自に提案されており、近年では私が最も尊敬する建築家の一人です。 計画を白紙撤回までして仕切り直したプロポーザルで、結局参加グループが2社というのは寂しい限りですが、施設の規模や工期、求められる高度な技術力などから見て、この工事を担えるには大手5社クラスだけだろうと見られている事からすれば、予想された結果だと言えるでしょう。であるならば、わざわざ白紙撤回までして再公募をかけなくとも(結局は、元計画に深く関わった企業が中心となって応募しているわけです)、ザハ氏を含む元のグループに新たな条件を伝えた上で、彼らのこれまでの膨大な蓄積を無駄にしない形で、改めて見直し設計を進めるという選択肢は、果たして無かったのでしょうか。元案のコストアップの原因が、巷で流布しているようなザハ氏のデザインだけの問題では決して無いのですから、少なくとも前回コンペでザハ氏という建築家を選んだ限りは、事業主としての責任においても、その可能性をまずは探るべきだったように私は思います。 ザハ氏は、元の計画で一緒だった日建設計と共に今回も再挑戦する意思を示していましたが、結局タッグを組む建設企業が見つからず、参加を断念しました。ザハ氏は、英国BBCのラジオ番組のインタビューで、今回の新国立競技場問題は「スキャンダル」であると述べて、強い憤りを表明したとの事です。私が、もし仮にザハ氏と同じ立場だったとしたら、(そんなことは100パーセントあり得ませんが・・笑)おそらく同じように感じるだろうと思います。ザハ氏、そしてザハ氏と共に、グループの中心になって設計を進めていた日建設計には本当に気の毒な結果となりました。 今回のプロポーザルの審査基準では、全体の評価点140点の内、コストと工期が半分の70点、計画のコンセプトやデザインが50点、業務に取り組む姿勢や体制が20点という配分となっていて、コスト優先の考え方がはっきりと示されています。ですが、今回は工事費の上限が1550億円と明記されているため、おそらくどちらのグループも、その上限に近い工事費を提示してくるのではないでしょうか。(これはもう2グループの間での暗黙の諒解・・といったら言い過ぎでしょうか?) ですから、今回のプロポーザルは、2グループの間でおそらく工事費に大差はつかない中、与えられた条件をしっかりとクリアーした上で、1550億円の範囲で、どれだけ魅力的で優れた提案が出来るかということになるでしょう。 これまでの経緯を見れば、この世界が注目する国家的プロジェクトの進め方としては、あまりにもお粗末であったと言うしかありませんが、私は、この「わずか2ヶ月で多岐にわたる提案書をまとめ、来年1年で実施設計を全て完了し、その後約3年の工期で、2020年の初めには確実に工事を完成させる」という、この極めて過酷で困難な突貫プロジェクトに、果敢に挑もうとしている2グループに、深い敬意を表します。そして、色々あったけど結果的には素晴らしいのが出来たね!とみんなで喜べるような競技場になって欲しいと、建築に関わる一人として切に願うものです。 伊東豊雄さん、頑張れ!!

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新国立競技場計画白紙撤回は英断か

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2015.08.27

ザハ、ハディト氏が、新国立競技場計画白紙撤回に、ビデオメッセージで反論し、これまで膨大なコストと労力を費やして蓄積してきた成果を無に帰してしまうことのリスクを最大限考慮すべきである事、そしてコストの高騰は、デザインのせいでは無く、競争原理が働かない中でゼネコンを選定したためである、などと主張しました。 私は、元よりハディト氏のデザインを支持していたわけではなく、むしろ、あの場所に、あのような巨大かつ奇怪ともいうべき建物を建てる事のリスクをかなり危惧していたのですが、今回のハディト氏の意見には、同感できる点が多々ありました。道半ばで、いきなりハシゴを外されたハディト氏の忸怩たる思いは置くとしても、これまでの成果を全てリセットして一から仕切り直すには時間が無さ過ぎるし、すでに費やされたコストを考えれば、あまりにも勿体無い。一見いさぎよい安倍さんの白紙撤回は英断だと持ち上げる人もいますが、私から言わせればとんでもない話で、あまりにも遅きに失した結果のお粗末な判断としか言いようがない。当事者の身にもなってみろよという訳ですよね。 これまでの成果をいかに生かした形で真に求められるものを創り上げることができるか、これからが正念場といえますが、コストを合わすために設計と工事を一体化して募るとなれば、まさにハディト氏の言うように、再びコストについての競争原理が働かない危惧もあるわけで、コストは安いけど凡庸で中途半端なものになってしまったら元も子もありません。というわけで、しばらくの間、建築家のはしくれとしてこの問題から目が離せません。 私の事務所に応募資格があれば、頑張って提案するんだけどなあ(^○^)  

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