豊田市博物館 探訪

カテゴリ:

2025.12.09

      谷口吉生氏の名作、豊田市美術館に隣接して昨年(2024)開館した豊田市博物館、名古屋への所用の帰りに訪れることができました。 設計は坂茂氏で、一般公募のコンペで選定されたそうです。博物館の敷地は旧豊田東高校で、博物館計画時には特に美術館との関連付けはされていなかったようですが、坂氏は優れたモダニズム建築である豊田市美術館(1996年完成)に敬意を表する意味も込めて、美術館に並べてこの博物館を配置し、両者を庭園でつなぐことで、一体のミュージアムゾーンとして整備しました。 庭園を含むランドスケープの設計は、美術館の前庭をデザインしたアメリカのピーター・ウォーカー事務所で、坂氏の方から声をかけて実現したそうです。 坂氏の構想力が30年の時と場をつなぎ、博物館と美術館を合わせて体験できる全国的にも珍しい場所が実現していました。       博物館のエントランス部分は木造の有機的な空間となっていて、天井部分の木造パターンは豊田市の市章を模したものだそうです。鉄とガラスのモダニズム建築である豊田市美術館と明確に対比する空間となっています。                       常設展示室は、収蔵品を納めた巨大なスチール製の展示棚が中央に設けられていますが、この展示棚がこの空間の耐震コアとして構造的にも機能するという合理的な設計です。       常設展示室の周囲には外部の緑を望めるスロープが設けられていて、展示空間を眺めながら2階の図書コーナーに至ります。           1階のエントランスホール及び、そこから階段でつながった2階ホールは共に「えんにち空間」と名づけられ、様々なイベントや展示に対応できるようになっています。       博物館2階レベルの庭園からエントランス前の広場を見る。前方にはトヨタ自動車の本拠地、豊田市街が望めます。      

博物館と美術館をつなぐ庭園は博物館の2階レベルで繋がっています。

      隣接する美術館前の池と幾何学的なファサード。谷口建築の真骨頂と言える、思わず身が引きしまるような端正で静逸な空間です。       カフェにも隣接する博物館の2階ホールから、美術館につながる庭園に出入りすることが出来ます。博物館のガラスファサードの縦長プロポーションと、展示室が収まるコンクリート造のマッシブな壁面は美術館との調和が図られています。      

博物館前の広場。美術館につながる2階レベルの庭園の下部に、この広場に面したセミナールームが設けられています。

  以上のように博物館の顔となる1~2階のエントランスホールとえんにち空間は環境に配慮した木造、常設展示室は収蔵物の見せ方を考慮した鉄骨造、メインの展示空間は来訪者が展示の観賞に没頭できる閉鎖的なRC造、という適材適所で理にかなった構造形式となっています。   この日はエントランス前の広場でも地域のイベントが行われていました。 それぞれ異なる構造形式を素直に表した自由なフォルムと広場や、美術館へと続く緑豊かなランドスケープが、広場でのアクティビティーと合わさって、生き生きとした風景を創り出していました。 最後に一つだけ気になったことを書きますと、この日私がエントランスホールに入るとすぐに係の方からチケットの購入と展示室への入場を促され、この建築の共用空間をしばし自由に楽しみたいと思っていた私は、やや窮屈な印象を受けました。 今後は、管理方法に相応の工夫が要るのかも知れませんが、(展示を見るという目的でなくとも)誰もが自由にえんにち空間等のイベントや2階にあるカフェに立ち寄ることが出来て、それぞれの時間を思い思いに楽しめるようなミュージアム空間であって欲しい、おそらく設計者の坂氏の意図もそのようなものではなかったか。。というふうに僭越ながら感じた次第です。  

<了>

続きを読む