たねや「ラ・コリーナ近江八幡」探訪

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2021.11.22

  遅ればせながらと言うべきでしょうか、秋の休日に、近江八幡にある和洋菓子のたねやグループのユニークな施設である「ラ・コリーナ」をようやく訪ねることが出来ました。 それも近江八幡に用があり、その帰途に車を走らせていたところ、偶然に「ラ・コリーナ」の看板を見つけ、急遽訪ねることにした次第です。 休日は駐車場に車を停めるのにもたいへんな混雑と聞いていましたが、この日は夕刻だったこともあり、待ち時間もなくすんなり駐車することが出来てラッキーでした。 さて竣工後まもなく7年になる草屋根の姿がどうなっているでしょうか。     言わずと知れた藤森照信さん(何故か、僕ら若輩でも思わずさん付けで呼びたくなる建築家です)の設計になるこの建築、駐車場を下りて一面クマザサが生い茂るアプローチの向こうには、シバに覆われた大屋根だけが見えるメインショップの建物が、背後の八幡山のシルエットをくずすことなく、風景の一部となってたたずんでいました。ショップは結構なボリュームですが、そのスケール感を全く感じさせません。建物の形状もとんがり屋根のてっぺんに一本の植樹(資料によれば高野槙)がされているなど、ユーモラスで親しみやすいものです。     施設全体の構成は上の案内板のような感じです。約11万㎡とされる広大な敷地に、様々なショップや、たねやの本社、農業施設、緑の回廊などがのびのびと配されています。まだまだ今後の建設予定もあるようです。     メインショップに入ってみると、アプローチの牧歌的な風景とは対照的にたいへんな賑わいでした。お目当ての焼き立てバームクーヘンを求めて長蛇の列が出来ていました。         ショップの中は屋根形状がそのまま表れていて、天窓から柔らかい光がふり注いでいます。漆喰塗の天井と天窓にまでちりまべられている黒いものは、木炭を細かく切ったものだそうで、 たねやの職員の方も工事に参加してみんなで仕上げたとの事です。洋菓子等のチョコチップのイメージでしょうか。遊び心のあるユニークなインテリアですね。吹き抜けに面した手摺のデザインなども、手作り風で、決して気取ったところがなく好感が持てます。  

窓辺の内観ディテール

    ショップの1階の一角には、歴史のあるたねやが、これまでたくさんのお菓子をつくってきた木型を綺麗に並べて、ディスプレーされていました。     メインショップを出て右側には、本社のある建物とその横にはカステラのショップが見えてきます。本社内部が見学できなかったのは少し残念。    

    見事に生い茂った草に覆われた外観!まるで日本の国の建物ではないかのようなバナキュラーな建築です。これだけの草屋根を維持管理してゆくのはさぞたいへだろうと想像しますが、まさに建築家の考え方に深く共感し、自分たちの建築として大事に使っていこうという事業主の強い意志に感動を覚えます。

藤森さんは雑誌新建築2015年7月号で本作メインショップ棟の完成時に寄せた文章の中で、自身がそれまで試みた建築緑化の成否について言及し「4勝5敗で負け越している」と素直に告白されています。挑戦することの困難さ、さらにその挑戦を受け止めてくれる事業主の懐の深さに感銘を覚えるエピソードですが、今回たねやの社長さんは、4勝5敗の建築家に仕事を依頼し、建築家を心底信頼して、さらなる新たな挑戦の機会を与えたわけです。

同じ雑誌新建築2017年1月号での藤森さんによれば、たねやの社長さんは、別の設計組織ですでに実施設計や確認申請が完了していた段階にもかかわらず、全て白紙に戻して藤森さんにこの仕事を依頼したとの事。すごい話です。別の設計者から見ればたまったものではありませんね。ちょっとあの国立競技場のザハ・ハディト案の白紙撤回を思い出してしまいます。ザハ・ハディトは生前、その決定に異を唱えていましたが、さて別の設計組織の設計者は出来上がったこの建築を見てどのような思いだったのでしょうか。同業者として聞いてみたい衝動にかられます。

ただいずれにせよ、この建築の完成と草屋根の成功という大金星によって、藤森さんの戦績が5勝5敗の五分になったことは間違いがありません。     工事の着工後に急遽決まったという本社の隣のカステラショップのインテリア。栗の柱が林立しています。  

  田んぼ越しに見える水平線の緑は、回廊の草屋根で、敷地と背後の山並みの間にあってすんなり景観に溶け込んでいます。少し残念なのは写真左側に見えるフードガレージの建物のR屋根が、敷地全体と周囲の景観の中ではやや唐突に見えることです。調査不足で不明ですが、この建物に限っては藤森さんの設計ではないように思えます。 間違っていたらごめんなさい。ただこのフードガレージ、時間が無くてゆっくり見れなかったのですが・・R屋根の大空間の下、ロンドンバスやシトロエンのトラックでマカロンなどを販売していて、ショップとしてはなかなか面白そうな場所でした。周囲のロケーションとはあまり脈路がないとはいえ、事業主の自由な発想で造られているようです。  

  よく見ると下部に車輪がついている移動式のショップ。外装は、藤森さんの指導のもと、職員の皆さんが手作りで仕上げられたとの事です。自分たちでも出来ることは、設計者や工事業者と一緒になって汗を流し、楽しみながら自分たちの施設をつくりあげていく事業主の姿勢は素晴らしいですね。    

  田んぼの廻りをめぐる散策路になっている草屋根の回廊はこんな感じ。シンプルで簡素。天井の垂木とその間の白い漆喰が縞模様に見えます。     マスクをつけたバウムクーヘンの穴の向こうで、自分もマスク姿で記念撮影に応じているのは私の家内の陽子さん。ブログ初登場です!  

  植樹で森をつくり、田畑を耕し、自社農園での共同研究など、「お菓子の素材は自然の恵み(たねやHPより)」と捉え、自然を通して人と人とが繋がる場をつくりたいとの思いでこの広大な施設はつくられているようです。SDGsを含め、とりわけ自然というものを大切に考える中で、単なるお菓子屋さんの枠にとどまらないグローバルな事業主の発想が、藤森建築と共鳴したのでしょう。近江八幡という地から世界へ発信したいという心意気が感じられる素敵な場所でした。既に琵琶湖の観光名所となっていますが、これから、さらに新たな施設が付け加えられることで、今後この場所がどう成長し、どのような情報発信をしてくれるのか・・とても楽しみです。  

<了>

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本福寺(水御堂)探訪

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2021.08.16

  建築後30年となる本福寺(水御堂)。建築に関わる人なら、楕円形の蓮の池の中央を切り裂くように階段が降りていくこの写真が、記憶にある方も多いのではないかと思います。 安藤建築の小品である真言宗のこのユニークな寺院は、淡路島の小高い丘の上にありました。      

寺院の正面から右に折れてアプローチしていくと直線的なコンクリートの壁が立ちはだかります。

    壁に穿たれた開口部より中に入ると、今度は曲面のコンクリート壁が。砂利が敷き詰められた2つの壁の間の空間は、俗から聖へと移動する際の中間領域のような静寂な空間でした。            

曲面の壁に沿ってぐるりと回りこむと、コンクリート製の蓮の池が眼前に現れます。

        吸い込まれるように地下へと続く階段を下りて、いよいよ御堂へと向かいます。 階段を下りると案内係の方が迎えてくれて、ここで拝観料を納めて内部へ。内部の御堂は一転朱塗りの空間で、木の柱のグリッドと格子のスクリーンで外陣と内陣が設えられています。 ここへ来て初めて、ああここはお寺なんだ!と改めて認識させられます。 西側の光庭によって、内陣の後方から午後の光が差し込み、この朱色の空間がさらに荘厳に感じられるよう企図されています。残念ながら御堂内部は撮影禁止でした。      

西側の光庭から差し込む光

      写真では分かりにくいのですが、グリット状の本堂を包む壁は円形、さらにその外側はコンクリート製の正方形の壁が囲んでいて、その上部に楕円形の蓮池が乗っています。単純明快な幾何形態の組み合わせで空間構成する安藤流の手法がここでも見られます。           案内の方の特別のはからいで隣接する和室の集会所も見せていただいたので、感謝の気持ちを込めて記念撮影。天井一杯の巨大な障子を開けると、敷地の緑と、何故かコンクリートの十字架?が目に飛び込んできます。 「30年を経ても綺麗に保たれていますね」と案内の方に声をかけると、「最近安藤さんから頼まれてコンクリートの改修工事をしたんです。費用はぜんぶこっちもちですけどねぇ」 「こっちもち・・そりゃそうでしょ!」と言いたくなるのをグッと呑み込んで(笑)建物への愛情とメンテナンスの大切さを思いながらこの御堂をあとにしました。      

見学を終えて両側の壁に囲われた階段を上ると視界に入ってくるのは青空のみ

      2枚のコンクリートの壁によって日常世界から隔てられた蓮の水盤が育む時の流れを抱合した静寂。水盤の下に密かに構築されているさらなる異空間としての朱塗りの御堂。この場を訪れることで、日頃のあわただく煩雑な日常から段階的に心がリセットされていくのを感じました。 安藤氏の目指した寺院建築とは、ただ寺院を訪れ奥に鎮座する仏様に手を合わせて終わるだけではなく、まさに建築空間そのものが生み出す「時と場の力」によって、より深く聖域(釈迦がいざなう仏の世界)というものを感じ取る中で、人のこころを開放し昇華させるものだったのでしょう。 特にこのコロナ禍の中、ぜひ一息ついて訪れてみる価値のある建築でした。   最後にかってこの建築が掲載されていた雑誌「新建築1992年7月号」より、30年経った今でも特に共感できる安藤氏の言葉を抜粋しておきます。 (安藤氏によれば、蓮は悟りを開いた釈迦の姿を象徴していると言われているそうです)   この御堂も年月が経てば、やがてコンクリートは風化し、蓮池は生い茂る木々で埋もれていく。しかし、夏がやってくればそこには蓮の花が一面に開花し、この場所が聖域であることを人びとの記憶に呼び覚ます。現代建築を犯している刹那主義が一時のきらびやかさだけをひたすら競うのに対して、姿を変えながらも、記憶の中に延々と持続する建築をつくりたいと思う。 (安藤忠雄)  

<2021年8月15日・了>

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旧竹林院の新緑

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2021.05.12

延暦寺の僧侶の隠居所であった里坊の一つ、旧竹林院。ステイホームにも飽きたコロナ禍GWの一日、庭園の新緑を楽しみに、家内と二人密かに、ぶらりと訪れました。       メディアでもよく取り上げられている主屋に置かれた座卓に映りこむ新緑のショットです。座卓は思いのほか小さいものでしたが、直近で慎重にアングルを決めてパチリ。 縁の手摺が上下の新緑の中に浮かんでいるような不思議な写真が撮れました。   主屋に面した庭園は約1,000坪の大きさ。よく手入れされた木々の新緑に映える築山と清流は、この季節らしい清涼感にあふれていました。              

近くの大宮川からひいた清流

            庭園内には茶室が二つ。上の写真の茶室が広間(蓬莱)。下の写真の入母屋造り茅葺の茶室が小間(天の川席)と呼ばれ、こちらは2つの出入口のある珍しい間取りとの事です。        

映りこみ撮影用の小さな座卓が座敷に置かれています

                  連続した座敷と縁のある開放的な主屋から眺める庭園。コロナ禍で来訪者も少なく、優れた日本建築と庭園とのコラボレーションをゆっくりと堪能し、しばし心癒されるひと時を過ごしました。  

<了>

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瀬戸内歴史民俗資料館 探訪

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2020.12.11

  かねてより行ってみたかった瀬戸内海歴史民俗資料館。11月始めの連休、かのGO TO トラベルもささやかに利用して、高松市郊外の高台に建つ知る人ぞ知るこの名建築を訪ねました。1973年完成のこの建物の設計者は、当時香川県建築課の課長だった山本忠司。丹下健三設計の香川県庁舎の建築に関わったこの人物は、瀬戸内海を望む五色台の小高い丘の上に、その地形になじんで地を這うように建つ平屋建築を実現しました。 高低差7メートル。自然を残した中庭を囲んで、8m×8mのユニットを基準としてその倍数のサイズを組み合わせ、各々に分節された展示室が屋外空間と一体となりながら、回廊状に繋がっていく構成は博物館建築としては斬新なものであり、また何より、この五色台という場所に根付いた「地域主義」の建築として秀逸です。       建物正面の全景。杉型枠のコンクリート放しと、石積の外壁との対比で構成された平屋建て。写真左側の方では瀬戸内海への視界が開けています。       建物入口にあるピロティ―。現地の基礎工事の際にダイナマイトで破砕した地場の安山岩を、お城の石を積むかのように、少し傾斜した外壁に張り付けた展示室の壁面が見えます。       玄関ホールに展示されていた模型。中庭を取り囲むように分節した平屋の部屋が配置されている様子がよく分かります。           屋外空間と絡めながら、レベル差のある地形に沿って、何段もの階段で展示室が連結されています。今の時代であれば、人にやさしくあるべきというバリヤーフリーの観点から、絶対に実現することのない建築と言えるでしょう。現在同じ敷地でこう言った建築を構想するとすれば、レベル差を処理するのにスロープを使用したり、あるいはある程度まとまったフラットな空間にまとめたりして、全く違った建築になるのかも知れません。しかしながら、建築が決してそれ自身だけでその存在を主張することはせず、建った後も変わらずその場所と一体化して自然に在り続けている姿は、建築の一つのあり方として、これからも訪れる者に訴えかけていくことでしょう。       岩場や植栽などの自然を残した中庭に配された回遊導線。建物の内外を順次めぐりながら、各室の展示を楽しめるようになっています。       中庭から第一民俗収蔵庫(石張りの部屋)方向を望む。竪樋は設けられておらず、屋上からの雨水はコンクリート製のガーゴイルから自然に流れ落ちるのに任せる設計です。       中庭よりガラス張りの中央展示ホール(現在は閉室中でした)を望む。左手に見える大きな石張りの壁面が一番大きな第一展示室(こちらも閉室中)。       第一収蔵庫の屋上に設けられた展望台に上る階段です。コンクリートの列柱の手摺は神社の玉垣をイメージしたものだそうですが、建物の解説パンフによれば、幾分施工者泣かせであったとか。瀬戸内海の眺望への期待感が高まるアプローチです。形状や大きさ、色調の事なる外壁の石積が、一つ一つ異なる表情を持っていて、思わず見入ってしまいます。           展望台に上ると360度の絶景が広がります。地域の生活の営みの歴史を丁寧に記録し、この場にしっかりと根ざした建物の屋上から眺める瀬戸内海はより印象的でした。機会があれば海側からの遠景もぜひ見てみたいものです。         赤と白の灯台のある少し離れた場所からの風景を目に焼き付けて、この建物を後にしました。中央ホールと第1展示室~第4展示室は令和3年3月19日まで閉室の予定となっていましたが、ぜひまた全館をじっくりと見れるようになれば、再訪したいと思っています。       この日の夜は高松市内に宿泊。同じ山本氏設計の有名な郷土料理の店「まいまい亭」を訪ねました。予約なしで飛び込みだったにもかかわらず、心よく迎え入れてくれた女将さんから、かってこの店に足しげく通ったという流政之やイサムノグチが好んだ料理の説明を聞きながら、美味しく楽しい夜を過ごしました。  

<了>

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こども本の森中之島 探訪

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2020.09.14

  安藤建築の新作、子供のための図書館「こどもの本の森中之島」を見学する機会がありました。コロナ禍の中、来訪者を限定した予約のみの公開です。 中之島公会堂、中之島図書館、東洋陶磁美術館、大阪市役所等の名建築が川沿いに立ち並ぶ大阪を代表する風景の中に出現した、これまでの安藤流から決してぶれることのないコンクリート打放し建築です。  

玄関横に配置された中之島界隈の模型。模型中央のこの図書館だけが木でつくられています

  コンクリート打放しとは、コンクリ―トを打設したそのままの状態で放っておくという意味ですから、元々は仮にジャンカやピンホールがあったとしても、そのあるがままの造る過程の痕跡が残る事も良しとした荒々しい仕上げであったはずなのですが、安藤氏が牽引したとも言えるコンクリート打放し建築の普及と共に、打放しの施工技術も進み、一般の人々にとってのコンクリート打放し建築は、「お洒落で白く綺麗なもの」に変わっていったような気がします。この建物でも、竹中施工の打放しは一部の隙も無いくらい見事な精度と美しい仕上がりを見せてくれます。コンクリートの打設は、周到な準備をした上での一発勝負の集中力を要する作業ですから、ある意味体育会系の建築といえるかも知れません(笑)  

階段を上がったアプローチテラスからアクセス。テラスには安藤氏デザインの「青いりんご」

 

アプローチ反対側のファサード。エントランス廻りは低い本棚として開放的なカーテンウォール

 

建物は3層構成で、2階がエントランスフロアー。奥には本棚に囲まれた3層吹き抜けの空間が広がります。  

2階にある大階段。子供達や親達は思い思いにこの階段に座って、好きな本を楽しむことができる仕掛けです。  

      1階レベル奥にはトップライトから光が差し込む円筒状の空間が。壁面にはプロジェクションマッピングで、本の内容が紹介されています。もっとこの円筒形の空間全体が使われていれば、より迫力がある内容になったと思うのですが、そこが少し残念。     大階段を登った3階の奥は中之島の風景が望める明るい空間で、子供達の付き添いでやってくる両親も楽しめるような本が用意されていました。  

テラスに置かれた青いリンゴを閲覧室から中之島の風景と共に望む

  基本的に壁面全体が本棚。隙間にはスリット窓がランダムに設けられて、光を効果的に取り込んでいます。2階の一画は外に開いた明るいロビーで、一息つける空間となっています。       大階段を中心に各フロアーが俯瞰できる3階廊下からの写真。2階のロビーと最上階3階の閲覧室にある開口部がメリハリの効いた光を取り込みます。    

大階段の下を利用したスペース。小さな子供たちの居場所になりそう

 

テーブルの傍にある本棚の詳細

 

最下階1階の閲覧室。テーブルに座り、ゆっくり落ち着いて本が読めるスペース

  1階へ降りる階段と、吹抜けに斜めにかけられた2階レベルのブリッジは館内の回遊性を高める舞台装置。細かいフラットバーの手摺も綺麗ですが、隙間から小さいものが落下しないか少し心配     この施設は設計者である安藤自身の寄付によって建てられたものです。子供たちの活字離れが深刻化している昨今、本を通して判断力や表現力や創造性、感性を育む場を設けたいとの安藤氏の思いが、大阪の歴史や文化、芸術を直に感じる事のできる中之島の地で実現したのは、素晴らしいことです。 安藤氏のその国内外での豊富な作品の実績は言うまでもありませんが、私個人的には、大阪出身の安藤氏が一建築家の枠を超えて、強烈な社会的発信力と行動力を持った稀有な存在であり続けていることに、何より感服させられます。 この施設を訪れる子供たちが、様々な本に親しみ、この中之島の地で有意義な時間を過ごす事で、元気に次世代を担う頼もしい人材に育ってくれることを、素直に願いたいものです。

(了)

  同じく安藤建築で、この建物の兄貴分とでもいうべき「司馬遼太郎記念館」の探訪記を当blogにアップしていますので、併せてご覧ください。 http://tk-souken.co.jp/blog/3720/  

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RE-SOUL清水谷バリューアップリニューアル(オーダー型)

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2020.08.24

  6月の土曜日の午後、RE-SOUL清水谷入居者さんの一人であるKさんから着信。事情があって今の部屋から引っ越したいのだが、RE-SOUL清水谷の他の部屋は空いているか?との事。たまたま2室が空いたところだったので、その旨をお伝えして急遽2室を見てもらうことになりました。 2室共、Kさんが入居いただいていた部屋よりは少し狭いのですが、バルコニーに面してコーナーガラスのあるプラン(2室共)を気に入っていただき、どちらかにぜひ入居したい!ということに。 その後すぐに一つの部屋の方に他からの申し込みが入った事もあり、日当たりの良い7Fの部屋の方を選択することとなりました。  

改修前の写真。左側にクロゼット、右側の壁の向こうに台下冷蔵庫付のミニキッチンがある

  このタイプについては、新たにウォークインクロゼットを設け、W1200のミニキッチンをW1500の2口ガスコンロ(グリル付)付に更新、キッチン横に冷蔵庫置場も用意するというバリューアップ計画があったので、Kさんの了解をいただき、キッチン面材、床のフローリング仕様、壁・天井の素材、照明計画等について要望をお聞きしながら決定していくという新しい試みで、リニューアル工事を進めることになりました。  

改修後のキッチンとウォークインクロゼットの壁(左側)

  Kさんは大阪市内でフラワーショップを営みつつ、商業施設の緑化等も手掛けるガーデンデザイナーで、インテリアにも関心が高く、素材等の決定にあたっては、お互い意見交換をしながら楽しく改修工事を進めることが出来ました。   まずは、納期を要する床材とキッチンから検討を開始。床材についてはいくつかの選択肢がありましたが、ここはオーソドックスにフローリングとし、既存の建具やコンクリート打放し仕上げの柱、梁、天井との相性から、節目が処所に見受けられるワイルドなナラ材を選択。木の風合いを損なわないよう艶を抑えたウレタン塗装としています。もちろん下階への音の伝搬を防止する遮音仕様です。  

      

    この部屋のキッチンは部屋の中にあり、インテリアの一部としてもたいへん重要なので、Kさんとショールームに出かけ、実物サンプルを比較して入念な検討の結果、立体的な木目を表現したウズクリホワイトを選択しました。白さが際立つ清潔な明るさと、うっすらとした木目の存在感が、ナラ材のフローリングや既存の建具等と、ほどよく馴染んでいます。  

      

    次に壁のクロスを決めるにあたり、いくつかの候補をこちらで選び現地の壁に貼り付けてKさんに検討してもらいました。壁の基本はホワイト系のクロスを前提に、一部の壁に使うアクセントクロスの候補もいくつか用意していました。さて多忙な中でKさんに検討いただいた結果の打ち合わせとなり、アクセントはどうしますか?と聞くと、墨色のクロスが良いと言う。なるほど女性としてはかなりシックな案ですね。でどの壁に貼りましょうか?と聞くと、いや全部の壁にお願いします、との返事。全部ですか?廊下の壁天井、水回りも全部? はい、全部が良いと思います。コンクリートにも合うし間接照明にも映えそうだし、何より落ち着いた大人のカフェのような空間で暮らしたいんです、と。 これは白い壁に対して一部の壁にアクセントクロスという既成概念に囚われていた私にとっては目から鱗でした。 なるほど、室内のコンクリート打放しの柱、梁、天井の面積は結構多いのですが、クロスを貼る壁の面積はキッチンのタイルを除くと、さほど多くはありません。コンクリートに白い壁というのは定番ですが、荒々しいコンクリート打放しに対して、墨色の壁を強く対置する案も有りかもしれません。ナラ材のフローリングや既存建具との相性も、メリハリが効いて悪くなさそうです。 かくして洋室の壁はすべて墨色クロスに決定、廊下・水回りゾーンも洋室に合わせて壁、天井とも同じ墨色クロスとなりました。 玄関扉を開けた瞬間に他の部屋とは一味違うシックな空間が広がります。  

      

                        照明については、既存の天井ローゼットから電源を取ってライティングダクトを設け、移動可能なスポットライトを実装。入居者さんの好みで、新たにスポットライトも追加出来るし、また既存のローゼットを利用して好きなシーリングを取り付けることも可能です。こちらは、すんなりと黒のライティングダクトとスポットライトで決まりです。       壁のクロスに続いてもう一つのKさんの要望は、下足入の扉を鏡貼りにして下さい、と言うものでした。これで、1階の住戸用玄関ホールに降りてから、細いステンレスサッシュの縦桟に姿を映して確認する必要がなくなります(笑)との事でした。全面鏡ですが使い勝手を考えてつまみを取り付けるのに少し苦労しましたが(写真はつまみ取付前の状態です)、巾40センチほどの鏡が思った以上の空間の広がりを感じさせてくれます。       さて仕上げはキッチン壁のタイルの選定。こちらも多数の見本を取り寄せ、何回かの打合わせを重ねた結果、紺色のボーダータイルとしました。墨色クロス、ウズクリホワイトのキッチンとシルバー色のレンジフード、ナラのフローリングや既存建具の木の風合い等々とも違和感なく調和しながら、独特な深みと奥行きを感じさせる紺色のボーダータイルは、より落ち着いた印象となるよう縦貼りとし、タイル目地はクロスに合わせたダークグレー色としています。       姉妹や友人たちに見せるとみんな感心してほめてくれます。とKさん。 今回のKさんのように、造る過程を一緒に楽しんでいただくことで入居者さんの満足感も増し、リニューアルを計画する側も、入居予定者さんの具体的な要望やこだわりを聞く時間を楽しみながら、あたかも設計者としてクライアントに接するかのような感覚で、心地良い張り合いを感じて改修工事を進めることが出来ました。 RE-SOUL清水谷のように、ある程度築年数を経た賃貸物件の改修を行うに当たって、他物件との差別化、及び入居者視点からの魅力付け手法の一つとして、今回のような「オーダー型バリューアップリニューアル」に大いに可能性を感じた次第です。   きっかけを作ってくれたKさんに感謝です。    

コーナーガラスのあるバルコニー。Kさんお気に入りのグリーンが設えられる予定

   

コンクリート打放しに墨色の壁、フローリングの木のぬくもりが間接照明に映える

 

(了)

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浦辺鎮太郎の建築 in kurashiki

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2019.12.23

  かっての紡績工場をホテルとして蘇らせ、保存再生建築のさきがけとなった、あの倉敷アイビースクエアーで、「建築家 浦辺鎮太郎の仕事」-倉敷から世界へ、工芸からまちづくりへ-と題する展示会が2019.10.26~12.22まで開催されました。 12月21日(土)倉敷公民館(浦辺作品の一つ)での第5回目のシンポジウムから、22日(日)の展示会最終日に合わせ、急ぎ足で久しぶりの倉敷探訪です。 実はかって、私が建築学科の学生だった頃、たまたまの倉敷旅行でアイビースクエアーを見て感銘を受け、オイルショック後の就職難の時代、叶うならば不遜にも浦辺設計を卒業後の進路にしたいと考え、浦辺氏宛てに入社を打診する手紙をしたためたことがありました。理由は忘れてしまったのですが、結局その手紙を投函することはなく、何とか建設会社への就職が決まったのでしたが、40年を越える時を経ても当時の記憶とほとんど変わらぬ姿のアイビースクエアーに再開することが出来ました。     展覧会はアイビースクエアー敷地の一画、アイビー会館にて開催されていました。壁面のほとんど全てが蔦で覆われた平屋建。         代表的な浦辺作品の写真、図面、及び模型、スケッチ等が天井高のある気持ちのよい空間に整然と展示されていました。       圧巻は模型の数々で、建築学科の学生達が手分けして造った力作ぞろい。浦辺作品はディテールが細やかで形も複雑なものが多いので、学生達は図面を読み込む作業を通して、たいへん勉強になっただろうと思われます。各々の模型の横には担当した学生達のコメントが添えられていました。  

代表作の一つである倉敷国際ホテルの模型(正面側)

 

倉敷市庁舎は駐車場棟、低層棟、シンボリックな塔のある高層棟と続きます。

 

後期作品である神奈川近代文学館。横浜にある3つの展示作品のうちのひとつです。

来年は、倉敷に引き続き、横浜でこの展示会が開催される予定。

      写真は、「黒と白の時代」と呼ばれる初期の作品である倉敷考古館増築。木造の本館に加えて鉄筋コンクリート造の階段室と展示室の新館を増築したもの。中央の階段室部分外壁は本館と同様に平瓦貼りですが、目地については本館のなまこ目地瓦張りとは異なる平目地張りとなっています。そして、それに続く展示室部分については、大胆にもモルタル仕上げのままの外壁にモダンなポツ窓が穿たれ、上部の壁面は何故かアーチ形状、その上に切り妻の置き屋根(木造・スパニッシュ瓦)が架けられています。 よくよく眺めていると地味ではありますが、実に味わい深いデザインで、階段室部分では既存本館との調和を図りながら、展示室部分は、一転本館とは差別化された自由でモダンな表現が模索されています。以後の浦辺建築の出発点となった作品とのことです。             上の写真は倉敷の浦辺建築を代表する作品、倉敷国際ホテルの外観。 外壁とも庇ともつかぬコンクリート打放しの「壁庇」が階毎の水平ラインを形づくっています。 他の浦辺作品にも共通して見られる特徴的な形態です。      

  上の2枚は丹下健三設計の旧倉敷市庁舎です(1枚目の道路右手の建物。2枚目はホール内観)。後に3市の合併により手狭になったため、浦辺設計の手で美術館に改修され現在に至っています。倉敷の街並みの中に丹下流のモダニズム建築が忽然と出現したわけですが、別の敷地での新しい市庁舎の設計にあたって、浦辺が出した答えはさて・・・。               倉敷市庁舎が完成したのは1980年。倉敷の伝統的な建築のあるエリアとは異なる新しい敷地に建っています。シンボリックな展望塔、西洋の古典建築をデフォルメして引用したかのような装飾的な意匠、アーチ形状のレンガ壁等々。上の丹下流モダニズム建築とは対極にあるといっても良い、浦辺流のポストモダンな庁舎建築です。 モダニズム的な視点で見れば、決して洗練された建築とは言えず、一見すると今風の商業施設かと見まがうような外観に、竣工当時はおそらく賛否両論(特に建築界からは)があったのではないでしょうか。休日で内部は見ることが出来ませんでしたが、1階に欧州の伝統的な建築に見られる閉鎖的な市民ホールが備えられています(現在の大阪市役所にも同様の市民ホールがあります)。 ここでの浦辺は倉敷の地域性を受け継ぐというよりは、むしろそこからは離れて、西洋の庁舎建築に規範を見出しながら、象徴的で格式のある市庁舎を目指したとのことです。 丹下の市庁舎も倉敷の地域性を参照しない丹下流モダニズムの建築でしたが、ひょっとしたら浦辺に丹下建築への対抗意識があったのかも知れません。 (浦辺は、そのクラフト的な作風に共通点を見出せる村野藤吾を尊敬していたそうです) そして市民の側から見れば、無味乾燥で画一的な公共建築とは一線を画したこの新しい庁舎、かえって親しみを持って受け入れられたのではないかと思います。 「黒と白の時代」の倉敷考古館とは、明らかに異なる、倉敷アイビースクエアーに端を発したといわれる「白と赤の時代」の代表作品です。   不易流行とは松尾芭蕉の言葉ですが、浦辺も終生この言葉を探求し続けたといいます。三省堂新明解四時熟語辞典から転記すれば、「いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと。また、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質であること。蕉風俳諧(しょうふうはいかい)の理念の一つ」となっていますが、続けて「解釈は諸説ある」とされています。文字自体の意味からすれば、「不易」は変わらないこと、一方で「流行」は時代の変換に応じて変化することであって、芭蕉は互いの相反する言葉をくっつけた上で、「両者は同一である」と説いているので、少し混乱させられてしまいそうですが、「流行に合わせて変化し続けることこそが不易の本質である」と解釈することも出来るのでしょう。 浦辺も営繕技師の時代の工場建築やプレハブ建築に始まり、「黒と白の時代」から「白と赤の時代」を経て作風は大きく変化しています。そして「自分自身をコピーするようなことはしてはならない」と説いていたそうです。浦辺の「不易」とは「時代の要請を見極める柔軟な精神を終生変わらず持ち続けること」であったのでしょうか。その結果として生み出された作品は華麗に変化を遂げながら、時を経た現在においても変わることなく輝きを放っています。   蛇足ですが、この「不易流行」私なりに建築をつくる行為の中で考えると、「時の流れの中で、変わらないもの(変えるべきでないもの・引き継ぐべきもの)と、変わりゆくもの(変化に応じるもの・新しくすべきもの)をしっかり見定めて建築をつくること」と理解しています。 http://tk-souken.co.jp/policy/policy_01/    ※この文章を書くにあたって、学芸出版社 「建築家 浦辺鎮太郎の仕事」-松隈洋・笠原一人・西村清是 編著 を参考にさせていただきました。  

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シンポジウム「建築の公共性ー誰のためにつくるのか」

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2019.04.01

  2019年3月28日に建築会館ホールで開催された建築学会主催のシンポジウム「建築の公共性-誰のためにつくるか」 「あなたは誰のためにその建築を設計しているのか、設計者の一人一人に改めて問いかけたい」 建築家の山本理顕氏の熱い問いかけへの答えを求めて、急遽東京まで出かけてきました。 (冒頭の写真は、シンポジウムの前に訪れた前川國男設計の東京都美術館公募棟のロビーからの眺めで、シンポジウムが行われた建築会館とは関係ありません)       上記シンポジウムの案内リーフレットで、「建築は発注者だけのものではない」と言い切る山本氏の主張には文句なく共感できます。民間建築のみならず公共建築においても、「あまりにも私的に建築がつくられている」と山本氏は警笛をならし、設計者がその専門家としての役割をきちんと果たすべきであると訴えています。自分も微力ながらそう言った問題意識を持って建築設計に取り組んで来たつもりですが、正直なところ、どうにも力及ばずで無力感を感じたり、モヤモヤした気分のまま建築の完成を迎えてしまったりした事があるのも事実です。 設計者は発注者から依頼され、報酬を頂き、発注者が望むものをしっかり咀嚼して形にするのが基本的な役割であり、当然発注者の側もそう言った意識で設計者を選んでいます。これが出来ない設計者には、まず仕事は来ません。   山本氏が敢えて我々設計者に求めるのはその先であって、発注者の基本的な目的-「私的な価値」を達成しながら、合わせていかにその建築に「公的な価値」を付与していくかという事ですが、これが凡庸な建築家(私のことです)にはなかなかハードルが高い。設計者は発注者からの深い信頼を獲得した上で、地域社会や周辺環境といった公の場においてその建築があるべき姿を的確に見出し、それらを懇々と発注者に説くことが出来る力量が必要です。こここそが、まさに専門家としての設計者の本分であると山本氏は語ります。私も出来る限りそうありたいと思っていますが、設計に携わる誰もがそう言った力量を備えているわけではありません。山本氏やこのシンポジウムのパネラーの皆さんのような見識と発信力を持った設計者はむしろ少数派ではないでしょうか。   山本氏も認めるように両者(公と私)は時に対立します。そういった場合、「発注者が報酬を支払って設計者に仕事を依頼する」といういわば主従関係の中では、どうしても「公」より「私」が勝ってしまうのはやむを得ないことでしょう。どのような局面でも発注者におもねることなく、正論で堂々と発注者に立ち向かえる力を持った設計者でなければ、今の状況においては、建築の公共性を充分に担保できないのではないか。その意味で山本氏の問いかけは、ずしりと重く私の胸に響き、はるばる東京まで足を運んでしまった次第です。   残念ながら、私の経験を踏まえて言えば、自治体発注の公共建築においても、発注者側の都合だけで建物がつくられている場合も多々あるように思います。言わんや、民間建築においてはや!です。では果たしてどうすればよいのか。 もちろん設計者がこれまで以上に、真の専門家として研鑽に励むことがまず第一であろうと思います。合わせて発注者側の理解も必要です。しかしながら現在の建築基準法をはじめとする建築についての法制度は、建築が備えるべ必要最小限の事項を定めたものにすぎません。景観法で、建物の意匠や色彩をある程度規制したり、自治体によっては建築確認を出す前に近隣住民への説明を義務付けることで、一定程度行政の裁量を効かせている場合もありますが、決して十分なものとは言えません。 建築の公共性を担保するためには、現状の建築基準法に替わる、より強力な法制度が必要な気がします。シンポジウムのパネラーの中では、法律家の五十嵐氏がそう言った趣旨の発言をされていました。たとえば公共建築の場合は、地域住民とのワークショップを必須のものとして義務づけた上で、その建築がその地域社会の未来にとって相応しいものとなるかどうかを、第三者、あるいは地域住民自身がきちんと検証、評価できるような新たな仕組みをつくる。あるいは現在各自治体が定めている建築確認前の事前協議を、そう言った趣旨から抜本的に見直す。建築の性能や安全性、ごく限られた範囲で周辺環境への影響を検証するだけではなく、時間軸で建築を捉える発想が必要です。建築を作るハードルは著しく上がるけれど、発注者も設計者もそこを避けて通るわけにはいかない状況となれば、否が応でも建築の公共性についての認識も高まるのではないでしょうか。設計者が果たす「未来への責任」に見合うだけの報酬も必要だと思います。   大多数の設計者が建築を創る上での適切な仕組みに沿って、普通に仕事をする中で、ごく自然に、私的な価値だけでなく公的な価値をきちんと備えた建築を未来に渡す事ができるようになれば、地域社会の中で、人と建築の関係はもっと豊かになるでしょう。山本理顕さんが、ここまで頑張らなくてすむような建築界となって(笑)、専門家としての設計者の地位も格段に向上し、建築家を目指す志ある若者がもっともっと増えてくれれば嬉しいのですが。  

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ポーラ美術館探訪

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2019.01.24

  お正月休み利用の伊豆箱根方面のんびり旅。以前から一度訪ねてみたかったポーラ美術館(2002年竣工)です。 年明け早々、優れた建築に出会えて心が洗われる思いでした。何が優れているのか?   まずは、美術館という文化的な施設をつくるためとは言え、この箱根の森の豊かな自然に対して人の手を加えるという事の重大性を全ての関係者が共有し、創る過程の様々な場面において熟慮と検討を重ね、環境への影響を最小限にとどめながら、この場所に最もふさわしい美術館を生み出そうとした姿勢と熱意がひしひしと伝わってくるのが素晴らしいと思いました。   次には空間構成の巧みさ。周囲の自然と一体化する中で、素材やプロポーションが周到に計算された開放的で変化に富んだ内部空間は、来訪者は単に美術品を鑑賞するだけではなく、展示室間を移動したり、カフェやロビーで一休みしたり、レストランで食事を楽しんだりする行為全体を通して、普段の日常とは違った唯一無二の高揚した時間を過ごすことが出来ます。様々なガラス素材の高度でディテール巧みな使い方を含め、まさに空間職人とでも言うべき設計者の手による、プロフェッショナルな建築と言えます。   三つめは構造形式の斬新さです。地上高わずか8メートルのこの建物はその大半が地下に位置しますが、建物の外壁は土に接していません。まずは円形のすり鉢状に地下を掘り下げてコンクリートの擁壁を作り、その中に十字形平面の鉄骨造の本体建物が擁壁とは離れて建てられています。擁壁と縁を切ることで、貴重な美術品を地下水や湿気から守り、建物周囲に排水空間が確保されています。また本体建物の基礎部分は地震の影響を受けない免震構造です。将来的に本体建物が老朽化した場合は、周囲の擁壁を残したまま次の世代の建物を建てることが出来るよう構想されたとのことです。   それでは来訪者の視線で順を追って紹介していきます。     道路からはブリッジを通って建物にアプローチします。建物の高さは低く抑えられており、この距離だと、背景の山並みを突出せず控え目にたたずんでいます。    

  アプローチから建物の中に入ると、大きな木製の自動扉が。この建物で唯一の「閉鎖的」といえるエレメントです。       練り上げられたディテールに、完璧に手入れの行き届いた美しいガラスの壁、天井で囲まれたエントランスです。ガラス越しの山並みのシルエットと真っ青の空、冬の優しい日差しに包まれています。    

  出入り口のある階は2階。エスカレーターでチケットカウンターのある1階に向かいます。さてこれからどんな空間が待ち受けているのか、期待感が高まります。    

  エスカレーターで下階へ降りていくと次第に館内の様子が明らかになってきます。1階レベルは左手に美術館のチケットカウンター、右手にはレストランへの出入り口があります。エントランスから続くガラスのトップライトが空間の奥まで伸びて、視線の先にある変化にとんだ内部空間と、ガラス越しの周囲の自然とのコラボレーションが爽快です。           1階のロビーからは吹き抜け越しに、展示室のある地下1階、地下2階までの空間が見渡せます。来訪者は、ダイナミックで特別な空間構成に心を高揚させながら、建物の中で自分が今居る場所をしっかり確認し、さてこれからどう行動するかを思案するのです。この突き抜けた開放感とわかりやすさ。来訪者にいかにして日常を離れた快適な時間を過ごしてもらうか・・この美術館のコンセプトが明快に表現されています。           私達は、レストランは後のお楽しみとして、エスカレーターで展示室のある地下1階に向かいました。展示室ではメインの企画展が開催されていました。この階のロビーに続く森に開いた大きなガラススクリーンのあるカフェは、地下とは思えない光にあふれた空間です。    

ミュージアムショップより展示室側の光壁をのぞむ

    ガラスのトップライトや天井と共に特徴的なエレメントである光壁です。内部に照明を仕込んだこの半透明のガラス壁は地下2階から最上部のトップライトまで貫かれています。横羽目のガラスパネルに対比して内部の照明は縦のラインが強調されています。       地下2階から1階までの3層分を貫く鉄骨柱の断面形状は十字型。あたかも「エンタシスの柱」のように、ゆるやかに中央が太くなっていてエレガントです。    

地下2階の展示室への出入り口

 

地下2階から3層吹抜けの上階を見上げる

 

地下2階は落ちついた空間。各階ロビーの随所に彫刻が配されています

  展示室内のPC版製の天井のディテールです。ここにも半端ではないこだわりが感じられます  

1階のレストランにようやく到着です

 

レストランから彫刻の庭をのぞむ

        宿泊したホテルのモーニングビュッフェを満喫した後で(笑)、尚かつお昼には少し早かったので、同行していた家内といっしょに美術館特製のお洒落なスイーツをいただきました。    

1階から2階のエントランスへの見返し。3種類のガラスが巧みに使用されています

    森と対話しているかのようにも見えるエントランスの彫刻。天気も最高なので、外を散策してみることにしました    

出来る限り自然のまま残された樹木の合間から、建物が垣間見えます

      よく整備された散策路には、さりげなく彫刻が配されています。雪のつもった日や、新緑の頃に、また訪れてみたいと思いました。     本体からせり出した2階のエントランス部分が、アプローチのブリッジにつながっています。     コンクリート製の擁壁で固めた外周部。擁壁と縁を切って、本体の建物が建てられているのがわかります。         地下2階のロビーに置かれていた模型です。この案にたどりつくまで、おそらくたくさんの検討用模型が作成されたことでしょう。   設計担当者の安田幸一氏は、故林昌二氏設計のポーラ五反田ビルにあこがれて、日建設計に入社したそうです。  

ポーラ五反田ビル 1971年竣工

  ポーラ五反田ビルは故林昌二の日建設計での最初の仕事で、以来ポーラ社のオーナであった故鈴木常司氏との長年の交流の中で、このポーラ美術館の基本構想までを手掛けた後、当時アシスタント役であった安田幸一氏に担当を譲られたとのことです。 多くの優れた建築作品を生み出した故林昌二氏が、自ら「格別に意義深い、建築家冥利につきる機会だった」と語る(「NIKKEN SEKKEI LIBRARY-11  ポーラ美術館」より)この美術館が日建設計での最後の仕事となったようですが、ポーラ五反田ビル同様、このポーラ美術館も次世代に伝えていくべき建築の一つであることは間違いがありません。 箱根には多くの美術館がありますが、建築にかかわる者ならば、このポーラ美術館は必見。 この建築に触れた若い世代が、次代を担う建築家に育ってくれる、いやもう育っているかも知れません。  

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太陽の塔探訪

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2018.12.19

  10月にあべのハルカスの展覧会を楽しんだ後、たまたま事務所で万博公園内施設の改修工事に係わることになったのを機に、久しぶりに万博公園を訪れ、事前に予約してあった太陽の塔の内部を見学することができました。    

塔の周りのランドスケープは綺麗に整備されています

   

外観は少し汚れが目立ちますが、堂々の大迫力で訪れるものを迎えてくれます

   

内部のミュージアムへの見学は地下の入り口から入ります(写真中央左の黒い部分が玄関)

   

ミュージアムのアプローチにある案内版

   

ミュージアムの中は残念ながら写真撮影禁止となっていました。

入り口の銘板のロゴがちょっといい!

    地下の出入り口から、地底の太陽のある展示室に入り、生命の樹を取り囲む階段(かってはエスカレーターでしたが、軽量化のため階段に替えられています)をゆっくりと登りながら、随所でコンパニオンの方の説明を聞くことが出来ました。撮影禁止なので紹介できないのが残念ですが、内部の様子は、前回Blogの「あべのハルカス美術館太陽の塔展覧会」での模型写真などを参照くださいね。 腕の部分まで登ると腕内部の鉄骨製の骨組みがあらわれます。かってはこの腕の中を通ってお祭り広場の上の展示空間にいけるようになっていました。しかしよくぞこんな、まさにべらぼうなものを太郎は考え、この国家的プロジェクトで実現することが出来たものです。 2025年の大阪での万博開催が決定しましたが、さて同じ大阪で今度はどんな万博にすればよいのか・・次の万博は、太陽の塔のような象徴としての「モノ」を中心にすえるのではなく、世界中から万博に参加する(バーチャルでも参加できる?)人々の間で、どのようなアクティビティー(「コト」)を生み出すことが出来るのかを、考えることから始まるのかも知れません。    

塔の裏側の黒い太陽

   

前の芝生ではライトアップの準備中

塔の廻りの樹木も塔と調和するように配置されているように見えます

   

平日にもかかわらず隣接のエキスポシティーは結構な賑わいでした

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