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2016.11.29
W.M.ヴオーリズの設計で、昭和12年に竣工した豊郷小学校旧校舎群。 一時は新校舎建設によって取り壊しの危機に瀕しましたが、永年地域で愛されきた校舎を惜しむ声からの保存運動の結果、平成20年から大規模改修が施され、現在は地域の教育・福祉の拠点として活用されています。 見学も自由に出来るので、11月の休日、湖東三山の紅葉見物のついでに、ぶらりと訪ねて見ました。 上の写真は、玄関を入ってすぐの展示室(旧職員室)に置かれている竣工当時の全体模型です。外観の基本はシンメトリーで、当時のモダニズムの手法を取り入れたものですが、外壁のレリーフや出入り口廻り等の控えめな装飾が、ヴオーリズらしい優しさと温かみを感じさせてくれます。 鯉の噴水のある円形の池を中心とした前庭も、建物と調和したモダンで格調のあるものですが、この造園の設計は、日本で最初のランドスケープアーキテクトとされる戸野琢磨氏の手になるとの事です。 この時代、しかも地方の一小学校建築に、建築と造園各々の第一人者によるコラボレーションが実現している事に感銘を受けます。建設当時「白亜の教育殿堂」、「東洋一の小学校」などと称されたと言われる威風堂々の外観をしばし眺めていると、この小学校出身の寄贈者である古川鉄次郎氏(当時の丸紅専務)の郷土への愛情と教育への熱い思いが伝わってくるようです。 1階の廊下は一直線にのびて100メートルもあります。床は南洋材のアピトンのフローリング貼。教室への出入り口は引戸ではなく、木製の片開きのドアで、床には開けたときの軌跡が描かれています。木製3段の跳ね上げ式の窓も、とてもモダンな設えですが、最上段は廊下側に、下2段は教室側に開くようになっていて、当時、元気よく廊下を走り回ったであろう児童達にぶつからないように配慮されています。 特徴的なのは、ユーモラスな階段の意匠です。手摺や壁面は、柔らかい曲線を用いてデザインされていて、手すりには、うさぎと亀の像が。そう!イソップ童話の物語を元にデザインされているのです。 一つ前の写真は、よーいドンでスタートするところ。手すりの途中には、油断して眠っているうさぎや、コツコツと着実に歩んで最後には勝利する亀の姿が配されています (上の写真) 。 児童が、階段の手すりを滑り台がわりにして遊ばない ( 昔よくやりましたね! ) ような配慮もあったのかも知れません。 上の2枚の写真は、建物の両ウィングの内、向かって右側にある講堂です。現在も卒業式に使われているとのことですが、とてもシンプルで明快な意匠です。 特徴的なのは、両サイドに並ぶ5段の縦長窓。窓下の穴にハンドルを差し込んで、5段の窓全てが一度に開けるようになっていたようですが、当時としては珍しい仕掛けだったのではないでしょうか。 (現在は最上部が火災時に自動で開くようになっているとの事ですが、一部の窓は当時の機構のまま復元されています) 80年にも及ぶ時を経る中で、大切にメンテナンスが施され、何代もの記憶を繋ぎながら、今なおバリバリの現役として使い続けられている…その空間がこうして常時一般にも公開されているのは素晴らしいことです。 上の写真はウイングの左側にある酬徳記念館。当時は酬徳記念図書館として一般開放されていたそうです。 手摺や梁部分の意匠に工夫がなされていて、旧校舎群の建物の中では最も装飾的な空間となっています。現在は、観光案内所やギャラリーなどに利用されています。 尚、私はまったく知りませんでしたが、この校舎群は、ア二メの舞台としても有名だそうで、そのアニメに関連した展示が沢山あり、建築や教育に関心のある人のみならず、アニメの聖地としても多数に親しまれているのが分かりました。
校舎の廊下から庭園を望む