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2022/05/10
日曜日のお気に入りTV番組「日曜美術館」で紹介されていた京都グラフィー。今回は記念すべき第10回目とのことで、GWの好天の一日、久々の京都で会場めぐりを楽しみました。
まずは八竹庵(旧川崎家住宅)の総合案内所に向かいます。会場となっているのは、武田五一も設計に関与し大正期の数寄屋大工が手掛けたという、庭に開いた和風住宅にライト風の洋館を組み合わせた都市型住宅です。京都市指定有形文化財に登録されており、普段は公開されていないという貴重な建築とコラボする作品展示を楽しみながら、写真祭の概要をチェックです。
参加アーティストにまつわる書籍が並べられています
伸びやかに庭に開いた開放的な座敷。とりわけ今の新緑の季節は最高です
縁側を利用した作品の展示
座敷の畳の上や土壁に、さりげなく自然に、作品が展示されています
さて、次はイサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛がコラボする、誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷の展示へ。こちらも堂々とした京の町屋建築で、玄関を入っていくときからわくわくします。
こちらも風情のある中庭です
田中泯が奄美大島の海中で舞う様をイサベル・ムニョスが撮影しています
上の写真は、2層吹き抜けの円形ギャラリー。元々は大きな緞帳等製作のための大型織機が置かれていた蔵だったそうです。天井のクロス梁を丸柱が支える構造は、ル・コルビジェ設計の上野にある国立西洋美術館のエントランスホールを連想させます。案内係の方のお話を聞きながら順番待ちの後、正面の開いた扉の向こうにある赤い螺旋階段を上って、3階の展示空間に向かいます。
螺旋階段を上がり、トップライトからの光が降り注ぐ円形の空間には、3本の帯が展示されています。この帯の一部(写真のプリントのように見える部分)は、イサベル・ムニョスが撮影した写真を和紙にプラチナプリントし、西陣の職人がその和紙の裏にプラチナ箔を張り付けた後、細かく裁断して糸にし、それをまさに一糸乱れぬコンマミリ単位の精度で織り上げて写真を再生する、という手順で創られているそうです。ムニョスの写真が、京都の伝統的手法によって帯の中で再構築されることで、その写真作品が表現する世界がより際立つ・・。山口源兵衛氏のユニークな着想による斬新なコラボレーションの試みです。
見学を終えた皆さんが居なくなった頃に「さあ今のうちですよ!」と仰る案内係の方のお言葉に甘えて、写真撮影をお願いしました。帯は丁度私の背丈ほどのサイズで、このコラボに飛び入りで参加させてもらった気分。
泥をかぶった後ろ姿は山口源兵衛氏
円形のギャラリーのある蔵の外観の見上げです。蔦のからまる「黒蔵」
こちらは円形の蔵とは対照的な京町屋の土間空間。濃密な展示に熱中した後の心が、しばし癒されたところで、いざ次の展示へ!
京都文化博物館 別館のエントランス
三条通りを東に進み、烏丸通を渡って、京都文化博物館 別館のギイ・ブルダンの展示へと向かいました。
上の写真は2階のギャラリーからのワンショットです。らせん状に立ち並んだ壁に、ファッション写真家であるギイ・ブルダンの写真作品が整然と展示されています。
重厚な様式美と、モダンでカラフルな展示壁の対比
展示壁には随所にスリットや開口部が設けられていて、よくよく見ると、手前にある作品とスリットの向こう側の作品とが、関連づけられているのが分かります。
ギイ・ブルダンは緻密に構成された作風で知られていますが、まさにその作品とコラボするかのように、よく計算された展示空間の中、色々なシークエンスで彼の作品を楽しむことが出来ます。
様式建築としての場の力、秀逸な展示構成、ギイ・ブルダンの多様な作品が醸し出す明るい知性、等々に直に触れることが出来て、ここでも心地よい時間を過ごすことが出来ました。
これまで外れのない京都グラフィーの展示! 舞台は町屋建築から様式建築まで・・その時代や場を超えて、素敵な展示空間に仕立て上げてしまう自由な感性と懐の深さに、感心することしきりです。
前川国男設計、香山嘉夫改修設計の京都会館(ロームシアター京都)の広場に面して建つ京都市美術館 別館では、ファッション、ポートレート、静物、風景等々多岐に渡って、幅広く質の高い作風で知られる、アーヴィング・ベンの展示です。
京都会館は、現在は蔦屋書店やレストランが入って賑わっていますが、前川国男の代表作の一つにしてモダニズム建築の大傑作、オリジナルを尊重した香山嘉夫の改修設計も見事で、いつ見ても素晴らしいの一言です。上の写真のように、本展の会場である京都市美術館 別館の意匠と並ぶと、やや違和感を感じてしまうのは否めませんが、これもまた京都なのでしょう。
展示空間は、昨年竣工・本年開館した大阪市中之島美術館の設計を手掛けた遠藤克彦氏のデザインで、60度の角度を持った三角形の壁パネルの連続で構成されています。
鋭角な壁で囲まれた場所では、より被写体の持つ特徴が際立つ事、及び照明だけに頼らず自然光を取り入れて撮影するためには露光時間を長くする必要があり、両側を鋭角な壁に囲まれた場では被写体の動きも少なくてすむ、という考えにより、アーヴィング・ベンが撮影の場として好んだシチュエーションだそうで、遠藤克彦氏は展示構成にあたり、そのことに着想を得たそうです。
会場の一画にはグレーの鋭角な壁に囲まれた場が用意されていて、来訪者が自由にポートレートを撮影できるようになっていました。実は私もこの場所で撮影してもらいましたが、まさに被写体の特徴が際立った結果か・・あまり出来栄えがよろしくなかったので、ここでは割愛しています(笑)。
グレー基調の鋭角な壁で構成された会場風景
建築家ル・コルビジェの肖像写真がありました。脚が長く見えて格好いいポーズです!
この日最後に訪れたのは、嶋臺ギャラリーのマイムーナ・ゲレージの展示です。夕刻になってもこれだけの来訪者の列。日中はもっと多くて一時間近い待ちだったそうです。
かって造り酒屋でもあったらしい会場の玄関を入ると、大きな井戸が鎮座
イタリア系セネガル人アーティストであるマイムーナ・ゲレージの独特の世界観を言葉で語るのは私には荷が重いですが、写真表現の枠を超えて、見るものをくぎ付けにするパワーを持った作品群でした。
ライティングがハートマークになっています。これも演出か?
個室では動画も上映。床に座ってゆっくりとゲレージの世界観を堪能
京都グラフィー、今年初めて訪れましたが、やはり一日で回りきるのは厳しいようです。来年は、しっかり時間を確保して、ぜひまた訪れてみたいと思わせる催しでした。
コンセプト、会場の選定、展示内容と構成、参加アーティスト等々、どれをとっても想像以上にすばらしいもので、今後も京都を起点として、さらにグローバルに発信していける可能性を大いに感じました。関係者の皆さん全員に素直に敬意を表したいと思います。素敵な催しをありがとうございました!
<了>