カテゴリ:
2020/08/24
6月の土曜日の午後、RE-SOUL清水谷入居者さんの一人であるKさんから着信。事情があって今の部屋から引っ越したいのだが、RE-SOUL清水谷の他の部屋は空いているか?との事。たまたま2室が空いたところだったので、その旨をお伝えして急遽2室を見てもらうことになりました。
2室共、Kさんが入居いただいていた部屋よりは少し狭いのですが、バルコニーに面してコーナーガラスのあるプラン(2室共)を気に入っていただき、どちらかにぜひ入居したい!ということに。
その後すぐに一つの部屋の方に他からの申し込みが入った事もあり、日当たりの良い7Fの部屋の方を選択することとなりました。
改修前の写真。左側にクロゼット、右側の壁の向こうに台下冷蔵庫付のミニキッチンがある
このタイプについては、新たにウォークインクロゼットを設け、W1200のミニキッチンをW1500の2口ガスコンロ(グリル付)付に更新、キッチン横に冷蔵庫置場も用意するというバリューアップ計画があったので、Kさんの了解をいただき、キッチン面材、床のフローリング仕様、壁・天井の素材、照明計画等について要望をお聞きしながら決定していくという新しい試みで、リニューアル工事を進めることになりました。
改修後のキッチンとウォークインクロゼットの壁(左側)
Kさんは大阪市内でフラワーショップを営みつつ、商業施設の緑化等も手掛けるガーデンデザイナーで、インテリアにも関心が高く、素材等の決定にあたっては、お互い意見交換をしながら楽しく改修工事を進めることが出来ました。
まずは、納期を要する床材とキッチンから検討を開始。床材についてはいくつかの選択肢がありましたが、ここはオーソドックスにフローリングとし、既存の建具やコンクリート打放し仕上げの柱、梁、天井との相性から、節目が処所に見受けられるワイルドなナラ材を選択。木の風合いを損なわないよう艶を抑えたウレタン塗装としています。もちろん下階への音の伝搬を防止する遮音仕様です。
この部屋のキッチンは部屋の中にあり、インテリアの一部としてもたいへん重要なので、Kさんとショールームに出かけ、実物サンプルを比較して入念な検討の結果、立体的な木目を表現したウズクリホワイトを選択しました。白さが際立つ清潔な明るさと、うっすらとした木目の存在感が、ナラ材のフローリングや既存の建具等と、ほどよく馴染んでいます。
次に壁のクロスを決めるにあたり、いくつかの候補をこちらで選び現地の壁に貼り付けてKさんに検討してもらいました。壁の基本はホワイト系のクロスを前提に、一部の壁に使うアクセントクロスの候補もいくつか用意していました。さて多忙な中でKさんに検討いただいた結果の打ち合わせとなり、アクセントはどうしますか?と聞くと、墨色のクロスが良いと言う。なるほど女性としてはかなりシックな案ですね。でどの壁に貼りましょうか?と聞くと、いや全部の壁にお願いします、との返事。全部ですか?廊下の壁天井、水回りも全部?
はい、全部が良いと思います。コンクリートにも合うし間接照明にも映えそうだし、何より落ち着いた大人のカフェのような空間で暮らしたいんです、と。
これは白い壁に対して一部の壁にアクセントクロスという既成概念に囚われていた私にとっては目から鱗でした。
なるほど、室内のコンクリート打放しの柱、梁、天井の面積は結構多いのですが、クロスを貼る壁の面積はキッチンのタイルを除くと、さほど多くはありません。コンクリートに白い壁というのは定番ですが、荒々しいコンクリート打放しに対して、墨色の壁を強く対置する案も有りかもしれません。ナラ材のフローリングや既存建具との相性も、メリハリが効いて悪くなさそうです。
かくして洋室の壁はすべて墨色クロスに決定、廊下・水回りゾーンも洋室に合わせて壁、天井とも同じ墨色クロスとなりました。
玄関扉を開けた瞬間に他の部屋とは一味違うシックな空間が広がります。
照明については、既存の天井ローゼットから電源を取ってライティングダクトを設け、移動可能なスポットライトを実装。入居者さんの好みで、新たにスポットライトも追加出来るし、また既存のローゼットを利用して好きなシーリングを取り付けることも可能です。こちらは、すんなりと黒のライティングダクトとスポットライトで決まりです。
壁のクロスに続いてもう一つのKさんの要望は、下足入の扉を鏡貼りにして下さい、と言うものでした。これで、1階の住戸用玄関ホールに降りてから、細いステンレスサッシュの縦桟に姿を映して確認する必要がなくなります(笑)との事でした。全面鏡ですが使い勝手を考えてつまみを取り付けるのに少し苦労しましたが(写真はつまみ取付前の状態です)、巾40センチほどの鏡が思った以上の空間の広がりを感じさせてくれます。
さて仕上げはキッチン壁のタイルの選定。こちらも多数の見本を取り寄せ、何回かの打合わせを重ねた結果、紺色のボーダータイルとしました。墨色クロス、ウズクリホワイトのキッチンとシルバー色のレンジフード、ナラのフローリングや既存建具の木の風合い等々とも違和感なく調和しながら、独特な深みと奥行きを感じさせる紺色のボーダータイルは、より落ち着いた印象となるよう縦貼りとし、タイル目地はクロスに合わせたダークグレー色としています。
姉妹や友人たちに見せるとみんな感心してほめてくれます。とKさん。
今回のKさんのように、造る過程を一緒に楽しんでいただくことで入居者さんの満足感も増し、リニューアルを計画する側も、入居予定者さんの具体的な要望やこだわりを聞く時間を楽しみながら、あたかも設計者としてクライアントに接するかのような感覚で、心地良い張り合いを感じて改修工事を進めることが出来ました。
RE-SOUL清水谷のように、ある程度築年数を経た賃貸物件の改修を行うに当たって、他物件との差別化、及び入居者視点からの魅力付け手法の一つとして、今回のような「オーダー型バリューアップリニューアル」に大いに可能性を感じた次第です。
きっかけを作ってくれたKさんに感謝です。
コーナーガラスのあるバルコニー。Kさんお気に入りのグリーンが設えられる予定
コンクリート打放しに墨色の壁、フローリングの木のぬくもりが間接照明に映える
(了)