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2018/03/12
お正月の休みを利用して、四国松山を旅しました。遅ればせながらのご報告です。道後温泉で有名な松山は、司馬遼太郎の「坂の上の雲」で描かれた正岡子規と松山兄弟が生まれ育ち、また「坊ちゃん」の著者である夏目漱石が松山中学校の英語教師として赴任していた地でもあります。松山市では、彼らゆかりの施設や場所を整備し、それらを有効活用しながらのまちづくりが進められています。その中心となるのが、平成19年に開館した「坂の上の雲ミュージアム」です。
上に行くほどせりあがったガラスのカーテンウォールが特徴的な外観。建物の平面は三角形なのですが、外から一見しただけではそうとは分かりません。恥ずかしながら、実は私、この建物の設計者が誰であるかを知らずに訪れたのですが、ファサードを見上げた第一印象は、どこか大手の組織設計事務所の若手が少し気合を入れて設計したのかな?くらいに思っていました。
露地状のアプローチを見返す
玄関は入ってすぐのホール
少し傾いた塀とガラスの手摺に挟まれた露地状のアプローチを通ってホールに入ると、上部にスロープと空中階段を大胆に配し、傾斜したコンクリート打放しの壁面に挟まれた吹き抜け空間が現れます。
最上部のスリット状のトップライトからは引き締まった光が降り注いでいます。
これはひょっとして・・・そうです。安藤忠雄さんの設計でした。
上階へ向かうスロープ。奥に見える階段は主として下階へと降りていく時に使われます
来訪者は、3角形の平面の外周に配されたスロープを歩きながら、それにつながる各展示室を巡るようになっています。
3Fから4Fへ向かうスロープの壁面には、産経新聞に連載されていた「坂の上の雲」
の紙面が、びっしりと並べられています。
建物の構成を、言葉で説明するのは中々難しいので、以下にパンフレットのコピーを掲載しておきます。
2階には書籍が閲覧できるライブラリーラウンジやミュージアムカフェ、3階から4階にかけて、3つの展示室があり、それぞれのテーマで「坂の上の雲」の世界が表現されています。
「坂の上の雲」で描かれた時代背景を紹介する最も開放的な3階「展示室1」
右側の壁面に沿って、緩やかに上ってゆくスロープが見えます
展示室1のカーテンウオール越しに見える洋館は、同じ敷地内にある「萬翆荘」bansuisou 。
旧松山藩士の子孫である久松伯爵の別邸として建築。国重要文化財に指定されているそうです
変化に富んだ建築空間を体験しながら、スロープ(坂道)を主とした回遊動線をゆっくりとたどり、それぞれ趣向を凝らした展示空間で、各々のテーマごとに「坂の上の雲」の世界を楽しめるようになっています。写真でも分かるように、展示室の面積に比して、吹き抜けやスロープ、空中階段などを含む共用空間に充分なゆとりがあり、建物全体が安藤流ミュージアムといえます。
帰りぎわにインフォメーションカウンター付近に立ち寄ると、サイン入り色紙が2枚飾ってあったので、誰のものなのか係の方に訊ねると、一人は竹下景子さん、もう一人は隈研吾さんですよ、と嬉しそうに教えてくれました。2枚の内の1枚が隈さんのサイン入色紙とは少し意外でしたが、新国立競技場のコンペに勝って一挙に知名度アップされたのかも知れません。建築と関係のないプライベートな友人に、たとえば槇文彦さんや伊東豊雄さんといった私が尊敬する建築家の話をしたくて尋ねてみても、残念ながらその名を知らないことがほとんどで、寂しい思いをすることがあります。日本での建築家の社会的な認知度はまだまだ低い (それはもちろん建築家側の責任ですが)・・・そんな中で、竹下景子さんと並ぶ隈研吾さんの色紙を見て、少し嬉しく思いました。