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2015/11/25
杭工事のデータ偽装問題。その後の過去10年間分の旭化成建材の調査で、3052件の内360件で偽装が見つかり、何と61人が関与したとの事です。この調査対象物件での偽装の内訳は約14万本の杭の内、その1.7%の2382本に偽装があったらしい。他社でも偽装が判明しているようなので、データの偽装は半ば常態化していると言ってもよく、これは誠に残念ながら、各メディアが指摘するように業界全体の問題と言わざるを得ません。
ただし、問題はデータ偽装の動機であり、杭の施工担当者が支持層まで杭が到達していることを確認していたけれども、機器の不具合等の何らかの理由でデータが取得出来なかったため、やむを得ず直近で施工した他の杭のデータを流用した、と言うのであれば、それはもちろん決して許される行為ではないとは言え、不謹慎な言い方ですが、まだまし・・・。しかしもし仮に、施工担当者が支持層に届いていないことをわかっていながら、一つの建物で何十本も打つ杭のうち1%や2%がわずかながら支持層に届いていなくても、建物に実質的な不具合が生じることはなかろう、というような安易な考えの基、杭を作り直すなどの手間を回避するために、データ偽装をしていたとしたら・・・これはもう悪質で救いようの無い行為です。ただし、一部の杭の支持層不到達を前提に改めて構造計算によって再検証した結果、幸いに安全性が確認される場合もあるかも知れません(構造計算上の安全率による)。よって偽装が見つかった物件では、まずは最悪の場合(支持層不到達)を想定して、そういった構造的な検証が必要でしょう。もし検証によって、杭の不到達による建物自体の不具合が懸念されるようであれば、改めて現地で杭の深度の調査をして不到達がはっきりすれば、早急に対策が必要となるのは言うまでもありません。
現時点では、各メディアも含め、杭偽装=建物の瑕疵という図式で、この問題を少し短絡的に捉えがちであるように個人的には感じます。ここは一つ冷静に事実関係を見際めていく必要があるのではないでしょうか。この問題の発端となった横浜のマンションでも、今のところ、杭の不到達が客観的に確認できるデータや、建物の傾き(本当に建物が傾いているのかどうかも含め)との因果関係などについての具体的な情報開示がなされていないようです。いたずらにユーザーの不安をあおらないためにも、当事者はきちんと事実関係を調査、検証した上での説明責任があるでしょう。また我々建築に関わる者も、しっかりした技術的な見識を持った上で、引き続き、この重く大きな問題から目をはなさずに考え続けていかなければと思います。(続く)