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2016/05/19
保存改修工事が完了したロームシアター京都(旧京都会館・1960年完成)の見学会とシンポジウムが、平成28年5月10日(火)日本建築学会 近畿支部 の主催で開催されたので、出かけてきました。
この度、その建築作品の数々が世界遺産に登録されることになった建築家ル・コルビジェの弟子である前川國男設計のこの建物は、言うまでもなく日本近代建築の代表作です。
2010年に「オペラハウスに建替える予定」と新聞紙上で発表されると、各界から強い疑問と反対の声があがった事は、我々建築に係わる者にとっては記憶に新しいところです。
以後、多くの議論を経て、残すべきものは残し、改修すべき部分は丁寧に改修する、既存を尊重しながら必要なものを付加する、そしてどうしても現在求められる機能が果たせない部分についてはやむなく建替える、という方針のもと、今私達が目にすることが出来るロームシアター京都が完成しました。今後、モダニズム建築の保存改修を考えるにあたって、優れた試金石となる素晴らしい事例だと思います。
岡崎公園につながる広場からの眺め
二条通東側の景観。1階にはブック&カフェ(TSUTAYA)2階にはレストランが入っていて、街路に賑わいが生まれて随分親しみやすい印象となりました。
多目的ホールとして生まれ変わったサウスホール
正面に、今回新たに付加されたガラス貼りの共用空間が見えますが、水平に伸びた庇が強調された建物全体の印象はほとんど変わっていません。正面右奥にレンガ張りの大ホール舞台部分の壁面が見えます。この部分の高さは、既存より高くなっていますが、写真右手前の客席部分は勾配屋根を用いてボリュームが抑えられているので、違和感は感じられません。
4階メインホールのホワイエ。東山の山並みを望む大庇上のテラスに面しています。
いかに優れた建築であっても、時の流れと共に老朽化し、また機能面でも時代に合わないものになっていくのは否めません。よって、建築物を時の経過に抗って化石のように当時の姿のまま保存するのが決して正しいとはいえず、時代の流れの中で人々に愛され永く使われ続けることが建築物としての本懐でしょう。優れた建築を「残す」ことと、その建築が生き続けるために「必要な手を加える」ことは、同義であると言えます。
「ロームシアター京都」では、この前川國男の名作をしっかりと次世代に引き継ぐために、「時代ごとの新しい価値を、古い価値の上に重ねていく」というコンセプトで、保存改修が為されました。
現在の日本に数多く存在する優れた「モダニズム建築」を生かすためには、既存建物の設計者の意図を充分に読み込んだ上で、新しい現代の設計者が、その特質を損なわないため必要な保存改修のスキルを存分に駆使し、さらに時代や環境が求める新しい空間の価値を付加していくこと、そしてその結果として、さらなる時の流れの中で変わらず人々に愛され続けることです。
「ロームシアター京都」は、今後建築物の保存改修を考える上で多くの示唆に富んだ「モダニズム建築の再生」事例であることは間違いありません。