シンポジウム「B案の主旨 新国立競技場コンペティションを振り返る」

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2016/02/17

「昨秋行われた新国立競技場のコンペティションの結果は既に御承知の通りですが、メディアでは表層のみが伝えられ、その真意が必ずしも正確に報道されているとは思われません。

そこで私達はB案の当事者及び審査員、批評家の方々を迎え、コンペティションにのぞんだ経緯、提案の主旨等を語っていただき、このプロジェクトの意義を問い直すことによって、今後の建築界や社会への理解を深める機会にしたいと思います。

小島一浩、千葉学、塚本由晴、柳澤潤、横河健(五十音順)」

 

上記の趣旨で、平成28年2月9日、シンポジウムが開催されました。その模様がYou Tubeで公開されていますので、とりあえずご紹介します。

 

 

今回のコンペの経過や結果に対して、大いなる「モヤモヤ感」を抱く建築家有志が、伊東さんを始めB案チームの担当者に声をかけて、このシンポジウムが実現したとの事です。2時間以上に及ぶこのシンポジウムを通して感じたことは・・・

 

まず第一に、B案がいかに独創的で完成度の高い提案であり、各担当者が見事なチームワークで情熱的にこのコンペに取り組んだ素晴らしい成果である事が改めてよく理解できました。

 

次にやはり、このコンペの審査過程が果たして適切でフェアなものであったのか・・という疑いがより増幅されたという事でしょう。審査員の一人であった香山先生も、各審査項目の評価点を機械的に積み上げた合計点で評価する採点方法 や、審査委員が各々どのような評点をつけたのかを公表しない審査の進め方に対して、素直に疑問を呈しておられます。

私が一番疑問に感じるのは、一度審査委員で「仮採点」をしてから、一時間程度審査員の間で自由に議論をした後に改めて採点をした結果、A案の合計点がB案を上回ったのだという、コンペの結果発表時の審査委員長の説明の部分です。

この「仮採点」の結果がどうであったのか、そしてこの「仮採点」を踏まえて審査委員の間でどのような議論が為されたのか、ということが、JSCから発表されている議事録でも一切公開されていません。そして最終評価において、A者及びB者に対してどの審査委員が各々の審査項目に何点を入れたのかといった内訳が、おそらく審査員自身も分からない・・といった状況では、審査員の先生方も事務局が集計した採点結果を信じて受け入れる他ないということですね。

ここは、やはり極めて不透明であり、事務局が集計の段階で(本命のAグループを通すために)得点を操作したのではないか?といった疑惑を打ち消すためにも、JSCは各審査委員が付けた配点の詳細を、(匿名でも良いので)きちんと公開すべきです。

このシンポジウムでの「審査の過程では、B案についてネガティブな評価はほとんど出ていなかった」という香山先生のお話に納得し、ますますその意を強くした次第です。

 

そして何と言っても印象に残ったのは、工期とコストが配点の半分を占める設計施工一体型のコンペ、そしてコンペ前からA者が本命というアウェー状態を十分承知の上で、「今の時代建築家の役割とは何なのかを問い、この官僚支配社会に対して、個人の建築家の存在感を何としても示したかった」という伊東氏の言葉です。

司会の中沢新一氏の表現を借りれば、建築家としての「フェアーな精神」でチームをまとめ上げながら、「大阪の陣の真田幸村のごとく最後まで情熱を傾けて取り組んだ」伊東氏の姿は、我々建築設計に関わる者すべてに、熱く強いメッセージを発しています。

 

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