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2025.11.05
近鉄学園前駅からバスで5分の大渕池のほとり、上村松園、上村松篁、上村淳之の3代日本画家の作品を展示する松伯美術館を久しぶりに訪ねました。 この日は、気品ある女性像で人物画に新境地を拓いた女性初の文化勲章受章者である上村松園の下絵と本画が多数展示されていました。 建物は1994年の開館で、村野藤吾が亡くなった後の村野・森建築事務所の設計で、担当は村野藤吾の後継者と言える近藤正志氏。随所の精緻なディテールや素材の使い方に、村野カラーを感じることのできる名品です。 右側の庭園越しに大渕池を望みながら少し奥まった場所までアプローチ。敷地は近鉄鉄道株式会社の名誉会長の佐伯勇氏の旧邸で、同じく村野藤吾設計の和風家屋も隣接しています。 松伯美術館という館名は、松園、松篁の「松」に敷地内の松林、「伯」は画伯の伯に佐伯勇の伯、そして旧邸内の茶室「伯泉邸」の伯にも由来するとのことで、正にこれ以上はない命名と言えます。 ちょっとユーモラスでかわいいガラス張りのエントランスです。この辺りは近藤正志氏の個性かも知れません。 プランは凹凸の多い複雑な形状で、エントランスのある1階に主な展示室、敷地の高低差を利用した地階にミュージアムショップと池のある中庭が設けられています。 上村画伯3代はいずれも優れた日本画家で、昨年館長の敦之氏が亡くなり、現在は新しい館長となっています。
1階から地下のミュージアムショップとそれに続く池のある中庭を望みます。
村野らしい拘りを感じさせる照明器具がワイヤーで支えられて宙に浮いていました。
先端が細くなったコンクリート製の白い丸柱が鉄骨を支える様は、ゆるやかな曲面の天井と相まって実にエレガントです。 唯一写真撮影が許されていた松園の美人画の下絵(右側)と本画(左側)。何とも言えない気品に溢れた松園の美人画は、いずれも浮世絵などとは異なりスケールが大きく見ごたえ充分。下絵の筆致は勢いがあり、何度となく推敲を重ねた跡が見受けられて興味深いです。 2階にある展示室の吹き抜けに面したギャラリーはトップサイドライトからの柔らかな光が心地よい空間。外観に突出したガラス貼の階段から、ほっと一息ついて臨める橋の架かった大渕池の景観。
池のある中庭は、この美術館の醍醐味と言える独特の風情を持った空間で、ベンチに腰かけて、中庭を囲むガラスやレンガ、コンクリート等々、素材の対比が効いたインナーファサードや、効果的に配された樹木が、静逸な池に映りこむ様を眺めていると、しばし時の経つのを忘れてしまいます。豊かな敷地内の樹木を生かした形での建物配置となっています。
隣接する旧佐伯邸。10名以上で予約をすれば見学が出来るそうです。
作品展示や村野建築だけでなく、閑静な住宅地というロケーションで、池に面した四季折々樹々の豊かな庭園の散策も合わせて楽しめる素敵な場所です。展示内容が変わればまた訪れてみたい美術館でした。<了>

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2025.08.25
住友コレクションの3000年以上前の中国青銅器を展示する「泉屋博古館」がリニューアルされたと聞いて、暑い夏の午後に訪ねてきました。 かって住友家別邸の在った一画、京都の地下鉄烏丸線蹴上駅から徒歩約20分ほどの落ち着いた街並みにある建物は、ちょうど前回の大阪万博が開催された1970年の完成だそうで、僕らの世代にはいい感じ(笑)。 やはり優れた建築は時を感じさせず、というか、時の経過とともに益々成熟して風格を増していくようで(人もかくあるべし!)、すごく建築マニアの琴線に触れる美術館でした。これからも季節に応じて、何度も訪ねてみたい場所になりました。 私はこの日もあまりに暑かったので車で行きましたが、駐車場も建物のアプローチと一体となった自然石の舗装がされていて、ちょっと贅沢な気分で気持ち良く入館できました。 玄関を入るとすぐ左手にミュージアムショップが見えます。受付は反対側の右手にあり、JAF割引きを適用していただき機嫌よく入館できました。美術館等ではJAFの会員証を見せると割引になる場合も多いのですが、大方の係の人は黙っていると案内してくれないので(笑)、いつも必ず受付時に確認するようにしています(時々面倒くさがられますが・・)。 入館してすぐの階段を何段か上がると、開放的なホール越しに広々した中庭が目に入ります。階段を多用して建物内のレベル差を設け、変化ある空間構成を生み出す形式も、この時代ならではで、徹底したバリアフリーが求められる現在では、厳しいかも知れません。 床のタイルは「ヘリンボン」と言う貼り方で、我が家の庭のテラスと同じや~という訳で、ちょっと嬉しくなりました。 これがメインの展示施設である青銅器館の入口です。なんと壁面上部の 空調の吹き出し口 も陶器で特注されていました! 吹き抜けになったホールに張り付く階段を少し上がって、一つ目の展示室にアプローチします。縦羽目の木の壁がまるで音楽ホールのような気品と暖かさを感じさせてくれます。
ホールの上部のトップライトから自然光がふりそそぎます。
展示室は4つあって少しづつレベル差が設けられています。螺旋上にそれぞれの展示室の中の階段(スロープもあります)で、4つの展示室を順番に上へ上と昇りながらめぐる構成になっています。 ほの暗い空間で上部も含めて5面のガラスケースの中に一つ一つ丁寧に展示されている青銅器は、驚くほど手の込んだ精巧なものばかりで、有名美術館のように混雑することもなく、じっくり落ち着いて中国青銅器の豊穣な世界観を感じとることが出来ました。これが3,000年前のもとのは驚きです。 最後の4番目の展示室から一歩外にでると、そこは建物の2階レベルで、ガラス越しの鮮やかな緑が目に飛び込んできます。「眺めのいい場所」と名付けられた、ただ外を眺めるためだけの空間です。かっては住友の美術品コレクションを見せるための迎賓館として建設されたというだけあって、この建物のドラマティックな見せ場になっています。 「眺めのいい場所」から下を見下ろすと、中庭を眺めるロビーが見えます。フリードリンクコーナーもあり美術品観賞のあと、しばしゆっくりくつろげる場所になっています。あまりに快適なのでつい長居してしまいました。1階ホールと中庭の間の縁側的な空間。軒を支える柱の意匠が特徴的です。
庭師・11代小川治兵衛の作庭による中庭の向こうには別棟の展示棟(この日は展示休館でした)があり、渡り廊下で繋がっています。 京都東山を借景としたシンプルな中庭 の中央には、井戸が設えられています。井戸は「泉屋」を屋号とした住友の象徴的存在とのことです。 建物から外に出ると道路に面した細長い空間に、前庭「泉屋博古の庭」があります。中庭と同じく11代小川治兵衛の作で、2005 年の完成。 こちらも住友の屋号「泉屋」をイメージしたせせらぎを中心に構成されています。空高くそびえる檜も、家業が銅精錬だった住友の象徴として、愛媛県別紙銅山から移設されたそうで、まさに住友の庭としてのコンセプトに裏打ちされた作庭でした。 ということで、この泉屋博古館(SEN-OKU HAKUKOKAN MUSEUM)では貴重な美術品を観賞できるだけでなく、設計者の拘りで空間構成や素材が徹底して吟味された建物を巡り、東山を借景として多くの名庭を造ってきた庭師・小川治兵衛 作の2つの庭 を散策したり、素敵な景色を望めるロビーで休憩したりしながら、ゆっくりほっこり、心安らぐ時間を過ごすことができます。 このところ大阪関西万博の人混みに慣れてしまった我が身には、ものすごく新鮮で(笑)リフレッシュできました! 東山界隈を訪ねた時には、ぜひ足を運んでみてください。 この美術館穴場です!!(今後も、これ以上混雑しないことを祈りつつ)<了>

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2025.06.10
言葉は何もいらない。
世界遺産の建築空間と対峙する 1945年生まれのドイツ人アーティスト の思い
余分な知識なしで、身体全体で受けとめたい 展覧会でした
2025年3月31日~6月22日 元離宮二条城―二の丸御殿台所・御清所―
「オクタビオパスのために」2024
「オクタビオパスのために」ディテール
二の丸御殿台所は裏方の空間で普段は非公開。黒々とした梁の架構が表しに
「オーロラ」2019-22
「オーロラ」のディテール
「アンゼルムここにありき」2024
「ヨセフの夢」2013
「ヨセフの夢」ディテール
josephs Traum
「モーゲンソー計画」2012
目を凝らせば麦畑の中に黄金の蛇
「モーゲンソー計画」ディテール
中庭に配置された彫刻群2024
「サッフォー」2024
「プトレマイス」2002-10・「弦理論」2019-23
「ボソン開放弦」2023
「ラー」2019

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2024.08.21
美しいピロティ―の写真の次に紹介するのはこの建物の設計者である内藤廣さんの熱い言葉です。設計者がこれほどまでに工事を担当した人たちへのリスペクトを公に表明するのは異例と言って良いと思います。 その言葉通り、どこを取っても隙のない見事な仕上がりでした。優れた設計者の手による、また公的にもたいへん意義のある建物を創ることを意気に感じ、地元の力を結集し総力を挙げて取り組んだ建設会社の心意気が感じられ、感銘を受けます。 自分で書くのもいささか気恥ずかしいところもあるが、この建物のピロティ―のコンクリートは異様に美しい。ここしばらく見たことのない完成度の高い仕上がりである。打設時には竹を差し込んで揺するなど、手間ひまかけて作業した成果だ。小幅の杉板型枠だが、板の色変わりもない。継ぎ目の分離による色変わりも、気泡もクリープもほとんどない。これはこの現場の所長である今川隆浩さんの尽力と現場の職人の熱意によるものだ。コンクリートの打設はチームワークと士気だ、と言っていたのが印象に残る。地元建設会社の意地を見たような気がした。 今川所長の家は、現場から300mほどのところにある。生まれも育ちもこの町だ。みっともない仕事はできない、という矜持がある。職人たちも地元の顔見知りだ。もちろん規模にもよるが、本来、建設業とはこのような地続きのコミュニティーで行われるべきではないかと思った。ここには、恥の精神が生きているのである。恥ずかしい仕事はできない、という思いは現代では貴重なものになりつつある。 <―内藤廣―新建築2018年11月号より> 「年縞」という言葉は聞きなれない人も多いかと思いますが、毎年湖の底に積もっていく堆積物の事で、三方五湖の一つである水月湖には、様々な環境要因が重なった結果、奇跡的に7万年の間、深さ45mに渡って、プランクトンや鉄分、湖周辺の花粉や飛来した火山灰や黄砂、洪水の土砂などが途切れることなく堆積し、それが縞模様になって残っていました。 関係者の尽力でその完全な発掘作業に成功した水月湖の年縞は、年代決定の世界標準のものさしに採用され、世界の歴史、考古学に欠かせない役割を担うまでになっており、この奇跡の年縞を世に広く知らしめるため、2018年9月にこの年縞博物館が開館しました。 (以上、年縞博物館解説書より一部抜粋) 水月湖の年縞は特殊な技術で、光を透すほどにスライス、研磨されて2枚のガラスの間にはめ込まれ、全ての年縞の実物が45mに渡って展示されています。 必然的に建物は横に長い直截的な形状となって、水月湖の方に向かうよう配置されています。 湖と川が近い立地なので、冠水の影響を受けないよう鉄筋コンクリート造のピロティ―の上に展示室を持ち上げ、年縞を展示するための長大なコンクリートの壁の上の鉄骨トラスが、木造の大屋根を支えるというハイブリッドな構造。 極めて理に適った設計ですが、その明快で直截的な姿の美しさに心を奪われます。
アプローチ側の全景
開放的なピローティー越しに周辺の風景を見ながら向かうアプローチ
コンクリート壁の上に乗った鉄骨トラス
年縞が示す時代に関連した展示スペース。裏側の年縞展示室より広く、鉄骨トラスを支えるコンクリート壁は中央からズレている45mに渡る実物の年縞展示がバックライトに浮かび上がる
長辺方向もトラス状になった鉄骨の架構と木造屋根。2mの豪雪にも耐えれる構造
2階床のコンクリートスラブを薄く見せるカーテンウォールのファサード
隣接の縄文博物館に呼応させた小山の上に2階展示室端部のカフェが面している
平屋の建物は立命館大の研究分室。建物周囲に雪囲いを設けた地域に根差した形式
建物一画にある建物の設計図面と建築賞の銘板
奇跡的な年縞の成り立ちを説明する三方五湖の展示パネル
隣接の縄文コロシアムと芝生広場
2000年竣工の若狭三方縄文博物館は、横内敏人さんの大力作。こちらは町営施設との事で、ややメンテナンスが充分でないのが残念 展示室でボランティアの方が、小学生の男の子に声をかけていました。「ボクは今何歳かな?」「9歳です」と男の子。「9歳か~じゃあこの年縞でいうとボクが生まれてから今まで、まだ数ミリだね」「え~っ」と驚く男の子。なるほど、とすると。。昨年古希を迎えた私でも、せいぜい数センチか~! 年縞博物館発行の解説書によれば、現代の安定した気候は氷期と氷期の間に束の間やってくる例外的な状態にすぎず、そんな気候の安定した時代であるからこそ文明が発達したのだと言います。これまでの歴史を見ると次の氷期は必ずやってくるはずであり、また一方で人間活動に起因する地球温暖化がこれまでの安定状態とはまったく違うモードに運びさってしまう可能性も否定できない、とのことです。 そう考えるとこの年縞が映し出す悠久の時の流れの中では、人間の一生などはごくごく小さく取るに足らないものであり、また今この世界全体が現在の人間のために存在しているのだ、という思い上がった意識などは、早々に改めるべきではないかと考えさせられます。 建物自体の素晴らしさに加え、年縞を通して先進的な現代の科学が導き出す地球や人類の歴史に、改めてじっくり想いを馳せることが出来る貴重な博物館です。 地元ボランティアの方の楽しく興味深い説明を聞きながら、目を輝かせて展示に見入る子供たちの姿が印象的でした。<了>


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2023.09.16
この日(令和5年9月16日)は高校同窓会の幹事が集う実行委員会。オフィスでの同窓会案内の発送準備作業等を無事に終え、6人で同級生が出演予定のライブBarへと向かいました。 オフィスのある清水谷町から上町筋まで出たものの、地下鉄を使うのにはちょっと中途半端、タクシーもすぐにつかまりそうにないので、少し時間もある事だし、空堀商店街を通ってぶらぶら歩いていこうか、と言うことになりました 。
商店街を抜けて谷町筋に出たところで、一番早く飲みたがっていたY君が、タクシーがちょうど2台やってくるのを見つけ、すかさず手を挙げると、うまい具合に2台続けて停まってくれました。 すっかりウォーキングモードになっていた残りの5人でしたが、まあ早くビールにありつけるのもいいか!となり、3人ずつに分乗してライブ会場に向かうことに。もちろんワンメーターで、タクシーの運転手さんのご機嫌はあまり良ろしくなさそうです(笑)。 グルメなKさんと、この辺りの美味しいお店の話などをしている内に、あっという間に現地到着です。<了>

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2023.08.14
台風7号が日本のお盆を直撃する前の休日、今日しかないな!と思い立ち、南方熊楠記念館と並んで和歌山で一度は訪れて見たかった熊野古道なかへち美術館へ。 大阪から、紀の川サービスエリアで茶そばと天ぷらのランチタイムと、この時期にしては意外と軽めの道路渋滞をはさんで、のんびりドライブすること4時間あまり。 熊野本宮へと続く山間の道路沿いの一画に忽然と現れたガラスと鋼板で出来たシンプルな箱たち。高さを抑えたフラットルーフ平屋のファサードは、周囲の景観を決して損なうことはなく、ごく自然にこの歴史ある場所と折り合いを付けたかのように佇んでいました。 1998年築の25年目。一度の改修工事を経たとはいえ、外装カラー鋼板のペコつきと色褪せ、外壁と屋根の簡素な取り合い部分の錆と汚れ、内部のホールへと続く天井裏への雨漏りの痕跡等々、歳月の流れを感じさせる箇所がいくつか見受けられました。 地方の小さな公共の美術館でありながら(いやそうであるからこそ。。)当時の新進気鋭の建築家(これが最初に手掛けた美術館。今や世界的に活躍されています)を起用して生まれた優れた建築ですが、一方でこの種の建築の維持管理の難しさを感じさせられました。 建築というものは、その場所との折り合いをつけると同時に、その先に続く永い歳月との折り合いをいかにつけていくか。。という事も大切です。 関西の大先輩建築家、出江寛氏の「古美る」という言葉が思い起こされます。 受付のあるロビーからエントランス方向を望む。わずかに彎曲する壁面が来訪者を展示室へと誘います。 ここで少し気になったことが2つ。一つはガラス面に半分だけ降ろされたロールスクリーン。この時間は直射日光の差し込みもないので、出来る限りガラス面は開放してすっきりさせたいところ・・ もう一つは、このガラス面に固定された展示のためのホワイトボード。このボードに貼り付けられた展示ポスターのサイズが、正方形のホワイトボードと合っておらず、だらしなく紙が下にはみ出してしまっている・・ 細かいことばかりですが、こういった部分にしっかりと神経が行き届いていれば、その建築を大事に思う発注者の気持ちが伝わってきて、設計に携わるものとしては(自分の設計したものでなくても)ほっこり嬉しい気持ちになるのですが。。やや残念。 というか、こんなことが気になってしまい、純粋に肝心の展示を楽しめないのは設計を生業とする者の性か・・むしろそっちの方が残念なのかも。 上の写真は、この美術館で設計者の展示会が開催された時のパンフレット。よくよく見ないと読めない せじまかずよ という細長いたてがきのサインがかわいい。
ガラスのコーナーに設置されたアート作品。外の景色が借景となっています
このロビー(交流スペースと名付けられています)はいかにも妹島さんらしい空間。ツヤのある壁面のパネルが外の景色をほのかに映し出しています。地域の皆さんも含めた交流の場としても考えられているそうです。 真っ白な空間に白いテーブルと原色のチェアー。オレンジの入ったTシャツが映えそうだったので思わず自撮り(蛇足でした)壁面に穿たれた空調の吹き出し口
ロビー(交流スペース)から見えるのどかな川沿いの景観
屋外に置かれたアート作品
ロビー(交流スペース)の外観。5枚ある天井までのパネルは扉になっていて外部に開く仕掛け。ちょっと大層な印象ですが、川沿いの屋外スペースから自由に出入りできるような配慮か。。排煙口(火災時の煙の排出口)を兼ねているのかも知れません。 、左側の突出したグレーの箱が展示品の搬入口とストックヤードになっています
中央の曲面の壁の中は機械室。右側に突き出している箱の中はトイレ
建築の基本的な構成としては、中央に矩形の展示室を設け、ガラス貼の回廊がその周りに設けられていて、来訪者は外部の景色を眺めながら自由に巡れるようになっています。その回廊につながる一番眺めの良い川沿いの一画が上で紹介した交流スペースというわけです。 ガラスの回廊は、それ自体が展示ギャラリーのようにも使える一方で、貴重な作品のある展示室と外部空間とのバッファゾーンとしての役割もありそうです。 そして展示や回廊以外に美術館として必要な機能である、事務室・トイレ・機械室・作品の搬入口とストックヤードは、各々が独立した棟で出来ています。 それらの棟は、回廊のガラスと対比させたカラー鋼板貼で、一つ一つが突出した形状で本体の回廊に取り付いています。 俯瞰的にプランを見るのとは異なり、予備知識なく訪れた来訪者は、建物の外周をぐるりと回ってみて初めて全体構成が分かるわけですが、エントランス横の事務室の棟は、アプローチ側からの視線に対して広角で設けられていて、来訪者の視線を受け止めるような構成になっています(上の写真)。 歴史ある熊野古道の山間にアートを通した地域交流の拠点としてつくられたこの美術館。設計者の個性を表した斬新な建築ではあるけれど、簡素なディテールを用いながらボリュームを押さえて各部を分節し、周囲の自然の中に埋め込まれたその佇まいに気取りや威圧感などは無く、誰もが普段着でぶらりと立ち寄ることが出来そうな施設となっていました。 若かりし設計者の想いの入ったこの建物がこれからも大切に使われ続け、地域の人々や熊野古道を訪れる人々にもっともっと親しまれればいいな、と思いながら帰路につきました。<了>

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2023.06.14
大谷幸夫氏設計のモダニズム建築である国立京都国際会館。会議などのイベントの無い時に、ロビーやカフェ、レストラン等が一般公開されています。この日は運よく休日の土曜日だったこともあり、ゆっくりと見学することが出来ました。上の写真はメインエントランス側の外観。この建築が只者ではない雰囲気を漂わせながら来訪者を迎えてくれます。 メインエントランスからロビーへ向かう両側にくの字型の壁面を持った長い通路。台形と逆台形をモチーフに造形されているこの建物を象徴するかのように、重ね合わせた両手でやさしく来訪者を包み込むような空間です。トップサイドライトからの柔らかい光が、小叩き仕上げの上部コンクリート壁面を際立たせています。 全体の面積の7割を占めるというロビー空間。国際会議場として、様々なシチュエーションでロビー活動の舞台となることが想定されています
日本庭園に面したテラス席もあるカフェテリア
V字型柱のディテイル。アート作品と一体になっています
日本庭園側から見た外観
剣持勇氏デザインの六角形チェアのあるロビーからカフェテリア方向を望む
村野藤吾設計の宝ヶ池プリンスホテルに隣接しています
ニューホールは、モダンでシンプルな 佇まいです

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2023.06.08
磯崎新氏設計の京都北山にある京都コンサートホールでの音楽会
1階ホールを取り巻くスロープをゆっくりと昇って演奏会場であるアンサンブルホールムラタに向かいます。演奏会のあるアンサンブルホールムラタ前のホワイエ
さて、弦楽四重奏であるこの演奏会のプログラムには、ハイドン、ショスタコーヴィチときて、休憩後の演目には、キングクリムゾン、ピンクフロイド、エマーソン・レイク&パーマーと言った1960年後半から1970代半ば頃に流行したプログレッシブロックのアーティスト名が並びます。 弦楽四重奏でロック? 私が10年以上前から注目しているこのモルゴーア・クァルテットの4人組は、それぞれがクラシックの世界で活躍する一流の演奏家達。元々はショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を演奏するために1992年に結成されたそうですが、メンバーの一人である荒井英治氏のプログレ愛が高じて、プログレの名曲をレパートリーに加えるようになりました。 ショスタコーヴィチとプログレ、もっと言えばクラシックとプログレは、まあ何となく親和性がありそうですが、弦楽器の4器だけでロック、それも複雑なリズムや音調・音階を持ったプログレを演ろうというのは、無謀な試みと言っても過言ではありません。しかしながらこの4人組は見事にそれをやり遂げとげています。まさに4人だけのシンプルなステージセッティング
上の画像はモルゴーア・クァルテットの3枚のCD。1枚目の「21世紀の精神正常者たち」と2枚目の「原子心母の危機」は彼らのサイン入りです。 ・キングクリムゾン ・ピンクフロイド ・イエス ・エマーソン・レイク・&パーマー ・ジェネシス などいずれもプログレの大御所達の名曲ばかり。 CDのジャケットデザインやタイトルもウィットに富んでいて、クラシック畑の人たちがこんなCDだすのか~と嬉しくなります。 ともあれ百聞は一見にしかず。 YouTube から拝借した映像で、彼らの熱演を体感してみてください! ついでに過去のBlogから、キングクリムゾンのコンサートレポートはこちら。
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2023.05.27
六甲山の展望台にある六甲枝垂れ。建築後13年が経ってこの地にしっかり根付き、現在は「シダレミュージアム」として若手アーティストの作品とのコラボレーションが楽しめます。
展望台へのアプローチ
六甲山の自然を体現したと言えるこの建物は、冬場には雨水をためて氷を作って建物下部の氷室にストック。夏場は冷気を氷室から建物内部の「風室」に取り入れて上部から排出することで、自然な換気による涼風が体験できます。アーティスト達の紹介パンフとその作品たち
建物内の「風穴」から望む山の新緑
段々畑のようなひな壇に冬場は雨水を溜め、氷をつくる。氷室にストックされた氷は夏場訪れる人に、自然エネルギーを利用した涼を提供する。。過去に六甲の水が神戸で販売されていたことから着想されたという、この場所で建築を通して自然を循環させるアイデア。神戸と大阪の街への眺望。(夜は百万ドルの夜景に)
見晴らしの塔やテラス、カフェ等があるイングリッシュ・コッテージガーデンを望む
展望塔を覆うフレームには吉野ヒノキのチップが装着されていて、冬場の条件が整ったときには樹氷が見られます。