カテゴリ:
2020.09.23
Withコロナの時代とは言え、そろそろ他府県の車が観光地に停まっていても顰蹙を買うことはなかろうと、思い立って三方五湖レインボーラインにある山頂公園を訪ねました。 ここは昨年の8月に31歳で急逝した息子が中学一年生だった夏に一緒に来たことのある思い出の場所。この年の夏は2人の姉が大学受験の夏季講習中だった事もあり、家内を含んで3人での小旅行となり、釣りが好きだった息子と海や渓流での釣りを楽しんだ後に、ドライブがてら、この山頂公園に立ち寄ったのでした。 当時は、今のようないくつものテラスやショップは無かったように思いますが、公園の一画には今と同じように、この地出身の歌手、五木ひろしの代表曲である「ふるさと」の歌碑があり、歌碑のそばのスイッチを押すと、曲が流れる仕掛けとなっていました。 祭りも近いと汽笛は呼ぶが 洗いざらしのGパンひとつ 白い花咲く故郷が 日暮れりゃ恋しくなるばかり この曲が発表されたのは1973年。1973年と言えば、当時20歳で大学一年生の私は、大学の音楽サークルで、後に黒人ブルースバンドを組む事になる仲間たちと出会った頃で、歌謡曲には縁の無い生活でしたが、私の両親が歌謡曲好きで、私が子供の頃はテレビの歌番組からいつも演歌が流れていた環境で育ったせいか、当時三方五湖を望む絶景を前にしてこの曲を聴くと、妙に心の琴線に触れたものでした。 一方、1988年生まれでおよそ演歌とは縁が無いはずの、後にDJの道を歩むことになる息子が、この場所で初めてこの曲を聴いて、不思議なことに、何故かしみじみ「ええ唄やなあ」と。 演歌好きで村田英雄の「王将」が18番だった私の父親からの血が3代に渡って受け継がれているのかな。。等と感慨にふけりながら、しばし中学一年生の息子と二人で海を眺め、大音量で流れる「ふるさと」に聴き入ったものでした。 今回は家内と二人でしたが、海が大好きだった息子のことですから、きっと一緒に聴いていたことでしょう。「この唄ヤバイ!」とでも言いながら。。 (ヤバイ!と言うのは何かをほめる時の彼の口癖でした) あー 誰にも故郷がある 故郷がある
絶景を眺めながらの足湯
カラフルな日傘がインスタ映え
ここにも在った「恋人の聖地」
三方五湖に面してカウンターやソファーのあるテラスがならぶ
山頂公園と駐車場を結ぶリフト(隣にケーブルカーも有り)。急こう配で結構スリリング
(了)
カテゴリ:
2020.09.14
安藤建築の新作、子供のための図書館「こどもの本の森中之島」を見学する機会がありました。コロナ禍の中、来訪者を限定した予約のみの公開です。 中之島公会堂、中之島図書館、東洋陶磁美術館、大阪市役所等の名建築が川沿いに立ち並ぶ大阪を代表する風景の中に出現した、これまでの安藤流から決してぶれることのないコンクリート打放し建築です。
玄関横に配置された中之島界隈の模型。模型中央のこの図書館だけが木でつくられています
コンクリート打放しとは、コンクリ―トを打設したそのままの状態で放っておくという意味ですから、元々は仮にジャンカやピンホールがあったとしても、そのあるがままの造る過程の痕跡が残る事も良しとした荒々しい仕上げであったはずなのですが、安藤氏が牽引したとも言えるコンクリート打放し建築の普及と共に、打放しの施工技術も進み、一般の人々にとってのコンクリート打放し建築は、「お洒落で白く綺麗なもの」に変わっていったような気がします。この建物でも、竹中施工の打放しは一部の隙も無いくらい見事な精度と美しい仕上がりを見せてくれます。コンクリートの打設は、周到な準備をした上での一発勝負の集中力を要する作業ですから、ある意味体育会系の建築といえるかも知れません(笑)階段を上がったアプローチテラスからアクセス。テラスには安藤氏デザインの「青いりんご」
アプローチ反対側のファサード。エントランス廻りは低い本棚として開放的なカーテンウォール
建物は3層構成で、2階がエントランスフロアー。奥には本棚に囲まれた3層吹き抜けの空間が広がります。 2階にある大階段。子供達や親達は思い思いにこの階段に座って、好きな本を楽しむことができる仕掛けです。 1階レベル奥にはトップライトから光が差し込む円筒状の空間が。壁面にはプロジェクションマッピングで、本の内容が紹介されています。もっとこの円筒形の空間全体が使われていれば、より迫力がある内容になったと思うのですが、そこが少し残念。 大階段を登った3階の奥は中之島の風景が望める明るい空間で、子供達の付き添いでやってくる両親も楽しめるような本が用意されていました。テラスに置かれた青いリンゴを閲覧室から中之島の風景と共に望む
基本的に壁面全体が本棚。隙間にはスリット窓がランダムに設けられて、光を効果的に取り込んでいます。2階の一画は外に開いた明るいロビーで、一息つける空間となっています。 大階段を中心に各フロアーが俯瞰できる3階廊下からの写真。2階のロビーと最上階3階の閲覧室にある開口部がメリハリの効いた光を取り込みます。大階段の下を利用したスペース。小さな子供たちの居場所になりそう
テーブルの傍にある本棚の詳細
最下階1階の閲覧室。テーブルに座り、ゆっくり落ち着いて本が読めるスペース
1階へ降りる階段と、吹抜けに斜めにかけられた2階レベルのブリッジは館内の回遊性を高める舞台装置。細かいフラットバーの手摺も綺麗ですが、隙間から小さいものが落下しないか少し心配 この施設は設計者である安藤自身の寄付によって建てられたものです。子供たちの活字離れが深刻化している昨今、本を通して判断力や表現力や創造性、感性を育む場を設けたいとの安藤氏の思いが、大阪の歴史や文化、芸術を直に感じる事のできる中之島の地で実現したのは、素晴らしいことです。 安藤氏のその国内外での豊富な作品の実績は言うまでもありませんが、私個人的には、大阪出身の安藤氏が一建築家の枠を超えて、強烈な社会的発信力と行動力を持った稀有な存在であり続けていることに、何より感服させられます。 この施設を訪れる子供たちが、様々な本に親しみ、この中之島の地で有意義な時間を過ごす事で、元気に次世代を担う頼もしい人材に育ってくれることを、素直に願いたいものです。(了)
同じく安藤建築で、この建物の兄貴分とでもいうべき「司馬遼太郎記念館」の探訪記を当blogにアップしていますので、併せてご覧ください。 https://tk-souken.co.jp/wordpress/blog/3720/