シンポジウム「建築の公共性ー誰のためにつくるのか」

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2019.04.01

  2019年3月28日に建築会館ホールで開催された建築学会主催のシンポジウム「建築の公共性-誰のためにつくるか」 「あなたは誰のためにその建築を設計しているのか、設計者の一人一人に改めて問いかけたい」 建築家の山本理顕氏の熱い問いかけへの答えを求めて、急遽東京まで出かけてきました。 (冒頭の写真は、シンポジウムの前に訪れた前川國男設計の東京都美術館公募棟のロビーからの眺めで、シンポジウムが行われた建築会館とは関係ありません)       上記シンポジウムの案内リーフレットで、「建築は発注者だけのものではない」と言い切る山本氏の主張には文句なく共感できます。民間建築のみならず公共建築においても、「あまりにも私的に建築がつくられている」と山本氏は警笛をならし、設計者がその専門家としての役割をきちんと果たすべきであると訴えています。自分も微力ながらそう言った問題意識を持って建築設計に取り組んで来たつもりですが、正直なところ、どうにも力及ばずで無力感を感じたり、モヤモヤした気分のまま建築の完成を迎えてしまったりした事があるのも事実です。 設計者は発注者から依頼され、報酬を頂き、発注者が望むものをしっかり咀嚼して形にするのが基本的な役割であり、当然発注者の側もそう言った意識で設計者を選んでいます。これが出来ない設計者には、まず仕事は来ません。   山本氏が敢えて我々設計者に求めるのはその先であって、発注者の基本的な目的-「私的な価値」を達成しながら、合わせていかにその建築に「公的な価値」を付与していくかという事ですが、これが凡庸な建築家(私のことです)にはなかなかハードルが高い。設計者は発注者からの深い信頼を獲得した上で、地域社会や周辺環境といった公の場においてその建築があるべき姿を的確に見出し、それらを懇々と発注者に説くことが出来る力量が必要です。こここそが、まさに専門家としての設計者の本分であると山本氏は語ります。私も出来る限りそうありたいと思っていますが、設計に携わる誰もがそう言った力量を備えているわけではありません。山本氏やこのシンポジウムのパネラーの皆さんのような見識と発信力を持った設計者はむしろ少数派ではないでしょうか。   山本氏も認めるように両者(公と私)は時に対立します。そういった場合、「発注者が報酬を支払って設計者に仕事を依頼する」といういわば主従関係の中では、どうしても「公」より「私」が勝ってしまうのはやむを得ないことでしょう。どのような局面でも発注者におもねることなく、正論で堂々と発注者に立ち向かえる力を持った設計者でなければ、今の状況においては、建築の公共性を充分に担保できないのではないか。その意味で山本氏の問いかけは、ずしりと重く私の胸に響き、はるばる東京まで足を運んでしまった次第です。   残念ながら、私の経験を踏まえて言えば、自治体発注の公共建築においても、発注者側の都合だけで建物がつくられている場合も多々あるように思います。言わんや、民間建築においてはや!です。では果たしてどうすればよいのか。 もちろん設計者がこれまで以上に、真の専門家として研鑽に励むことがまず第一であろうと思います。合わせて発注者側の理解も必要です。しかしながら現在の建築基準法をはじめとする建築についての法制度は、建築が備えるべ必要最小限の事項を定めたものにすぎません。景観法で、建物の意匠や色彩をある程度規制したり、自治体によっては建築確認を出す前に近隣住民への説明を義務付けることで、一定程度行政の裁量を効かせている場合もありますが、決して十分なものとは言えません。 建築の公共性を担保するためには、現状の建築基準法に替わる、より強力な法制度が必要な気がします。シンポジウムのパネラーの中では、法律家の五十嵐氏がそう言った趣旨の発言をされていました。たとえば公共建築の場合は、地域住民とのワークショップを必須のものとして義務づけた上で、その建築がその地域社会の未来にとって相応しいものとなるかどうかを、第三者、あるいは地域住民自身がきちんと検証、評価できるような新たな仕組みをつくる。あるいは現在各自治体が定めている建築確認前の事前協議を、そう言った趣旨から抜本的に見直す。建築の性能や安全性、ごく限られた範囲で周辺環境への影響を検証するだけではなく、時間軸で建築を捉える発想が必要です。建築を作るハードルは著しく上がるけれど、発注者も設計者もそこを避けて通るわけにはいかない状況となれば、否が応でも建築の公共性についての認識も高まるのではないでしょうか。設計者が果たす「未来への責任」に見合うだけの報酬も必要だと思います。   大多数の設計者が建築を創る上での適切な仕組みに沿って、普通に仕事をする中で、ごく自然に、私的な価値だけでなく公的な価値をきちんと備えた建築を未来に渡す事ができるようになれば、地域社会の中で、人と建築の関係はもっと豊かになるでしょう。山本理顕さんが、ここまで頑張らなくてすむような建築界となって(笑)、専門家としての設計者の地位も格段に向上し、建築家を目指す志ある若者がもっともっと増えてくれれば嬉しいのですが。  

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