COLOSSEO

所在 奈良県奈良市
住宅
敷地面積 217.00m²
建築面積 107.00m²
延床面積 172.00m²
RC造2F建
1989年5月

地価高騰によって関西地方では有名になってしまった奈良市の学園前。
近鉄奈良線の駅より車で5分程の場所にあるこの敷地は、16年前に建売分譲地として購入したものである。建物はまだ使えそうだが手狭すぎた。
そこで、それまでの住人だった私の両親に、大阪市内から家族4人を引き連れてUターンする自らの世帯を加えた2世帯の為の住宅に、思い切って建て直すことが決められた。
住居の構成は、各世帯の生活リズムを尊重するような完全分離独立型とした。容
積をフルに消化しても十分な面積を確保するのが難しい為、効率的なプランニン
グは必須のものだった。
1階、自らの住居では、玄関からすぐのLDKを基点にして廊下、水廻り、和室、LDK、あるいは廊下、子供室、庭(デッキ)、LDKといったようなサーキュレーションが考慮された。
これにより使い勝手が良く、また家全体の連続感や一体感を日々の生活行為の中で自然に感じとることのできるような空間が実現している。
2階、親世帯の住居では、12畳大のテラスを囲むようにLDKと和室を配することで接地性を確保した。
1階レベルの庭と2段構えでつながったこのテラスについては、外部階段を利用して庭から直接出入りすることが可能。日当たりも良い。
上下階の接点として、両世帯の気軽なコミュニケーションの場となった。LDKは、ボールト屋根の形状をそのまま表した天井によって玄関、テラス軒上部と一体に覆われており、決して十分ではない面積の部屋に高さと広がりを与えている。
2階に親世帯を配置することには多少の勇気を必要としたが、部屋数のバランス、日当たりの良さ、プライバシーの度合い、両親の良好な健康状態などを考慮して踏み切った。
将来は、2階への階段が健康状態のチェック機能を果たすものと考えている。
ベーシックな課題を解決すると同時に、感性に伸びやかな影響を与えてくれるような遊び心のある家とすることも大きなテーマだった。
宙に浮いて道路側にせり出した、スリットのある曲面壁。その延長としての庭上部のフレームと、これを支えるかのような丸柱。鋭角に張り出したバルコニー。2階のアプローチ空間とテラスを区切る列柱。キャンチレバーの階段。建物と一体化した塀。この家に機能を超えた付加価値が与えられたとすれば、こういったエレメントによるところが大きいように思う。

それぞれのエレメントについては異なる素材を用いながら色彩としては主としてモノトーンでまとめた。
それらは互いに微妙な均衡を保ってしつらえられている。結果としてファサードは、よく似た顔ばかりが続く既存の町並みに楽しいインパクトを与える一方で、落ち着いた雰囲気をも感じさせてくれるものとなった。
恣意的な造形が機能を阻害してはならない。
単に表層的な装飾のみが建築空間の質を高めうるとも思えない、機能的な空間の骨格(構造)をしっかりとつくった上で、これとの緊張関係を保ったもうひとつの骨格(構造)を構築し、建築空間の質をダイナミックに決定付けることを今回は試みたつもりである。
機能から一歩離れることで表現の可能性は高まる。
自立した表現は互いに響き合って、人の感性の領域を触発する。
「COLOSSEO」(コロッセオ)とは、ローマの遺跡の名にちなんだ、この家の愛称である。
時間を超えて美しく存在し続けるその姿に是非ともあやかりたいものである。