―まちと建築―

大小を問わず、建築が其の場所に存在する限り、そこに住まう人、働く人、訪れる人 にとっての「風景」として、嫌でも眼にふれるものです。したがって建築はその建築 の所有者や直接利用する人のためだけのものではなく、地域の社会的資産であると言 えます。

建築がその場に存在することによって、その建築を取り巻く周囲の環境と合わさって、 その場固有の「風景」が生まれます。その「風景」がその場にふさわしく、かつ、美 しいものであ り、そして少しずつ集積し、地域固有の景観イメージが生まれてくれば、 人々は自分の関わるまちに愛着を深め、そこで生活したり、働いたりすることの生き がいや喜びを、より強く感じることができるのではないでしょうか。まちに愛着が湧 けば、さらに自分たちのまちを良くしていきたいという気持ちが生まれ、そういった 人々の気持ちが、本来の「まちづくり」の原動力になっていくのではないかと思うの です。

たとえ小さな建物であ っても、よい建築をつくる事とは、ささやかながら「まちづく り」のお手伝いをすることであ ると私共は考えています。そしてそれは、本来、クラ イアントを始めとして、其の建築に関わる人々との共同作業であ るべきです。公共建 築であれば、クライアントは市民であるとも言え、次世代を担う子供たちの視点も、 より重要なのかも知れません。

私共は自分たちの建築作品をつくるためではなく、そのような視点をもって一つ一つ の建築をつくっていく必要があ ると感じています。現在の日本の都市景観は決して美 しいとは言えません。建物や土地の所有者の利益を守ることはもちろん重要ですが、 そこで終わることなく、社会的資産であ る建築に本来の価値を付加していかなければ ならないと思います。そうしたささやかな行為の集積が、少しずつでもその場にふさ わしい形で景観の質を高め、人々が愛着を感じる美しく快適な「まち」を生み出すこ とにつながると信じるからです。

田中啓文

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