星野リゾートOMO7大阪

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2022.08.17

  今年の夏はBA.5の感染拡大で、高齢者は不要不急の外出は自粛せよ、との吉村知事のお達し。さて我が身のリフレッシュは不要不急ではなく、やはり近々に必要であろうと勝手に判断し、お盆休みを利用して、近場のホテル2軒に宿泊することにしました。1軒目は、昨年の開業で話題にもなった星野リゾートのOMO7大阪。直前でもすんなり予約がとれたので、少しびっくりでした。           チェックインの時刻までまだ時間があるせいか意外に空いていた1階の駐車場に車を停め、黄金色のビリケンさんが控えるエントランスから、エスカレーターで2階へ。           2階へ上がって無人のクローク(ロッカールーム)に荷物を預け、鉄板製のオブジェチックな出入り口をくぐって、メインホールへと向かいます。          

開放的なホールにつながる公園越しにハルカスが望めます

     

壁面一杯のホテル周辺の案内板がカラフルです。新世界もすぐそこ。

      カラフルでカジュアルなソファがならぶホール。このホールに面してホテルグッズのコーナーがあり、部屋着なども自由にここでゲットできます。           ホールの奥にはカフェやダイニングがあります。ここで軽い遅めの昼食をとりながら、チェックインの時間を待ちます      

昼食後、まだチェックインの15時まで時間があったので、公園のテーブルで一休み。緑豊かな公園にいろんなファーニチャーが設えられた景観は魅力的ですが、やはり暑いです。。。

   

  高級ホテルにありがちな構えた感じのカウンターなどはなく、15時より少し早めでしたが、ごく自然でフレンドリーな感じのホテルスタッフに気軽に声をかけてみると、すんなりとチェックイン完了。荷物も自分で運んで上階の部屋まで向かいます。               さて部屋の方は約50㎡の広さのツインルームで、セミダブルサイズのベットが2つ。床は畳パネル敷になっていて玄関で靴を脱いで上がります。横長の窓からは新世界方向の街並みが望めます。壁際にはソファーが造りつけられていますが、あまり座り心地の良いものではありませんでした。横長窓は迫力満点でしたが、部屋全体としては特に工夫はなく、単にだだっ広いだけ・・という感じでしょうか。壁のクロスは、生地色の木部の色調とあいまって和を意識した色合いのようですが、どちらかと言えばカジュアルな印象です。      

廊下や部屋からは独立して設けられている洗面所

      東側妻側の部屋だったので、通天閣が見えます。部屋の窓の少し外側に設えられているファサードを構成する被膜部材が景色を切り取ります。夜間には、ファサードにネオンを映すキャンバスになる被膜部材ですが、部屋からの視線には、取り付け用の金物等がごく自然に目に入り、あっけらかんとおおらかに、舞台裏を見せられているかのような印象でした。      

ベットバックの間接照明はいい感じ

      ホテル内のディナーは予約で一杯だったので、歩いて数分の新世界に繰り出しました。上の写真は言わずと知れたジャンジャン横丁。これがホンマモンの大阪や!! コロナなにするものぞ、、の喧騒の中「だるま」で串カツをいただきました。その名も「新世界セット」。さすがに、二度づけ禁止のソースは、直接かけて食べる形式でした。       さて夜になると広場で、イベントが始まり、クラフトビールとたこ焼きが宿泊者には無償でふるまわれます。広場に面して別棟の銭湯もありお風呂上りの一杯を楽しむ人も。       綺麗に整備された芝生の上を子供が走り回ったり、寝転がったりして思い思いの時間を過ごすことが出来ます。もう少し涼しくなればより快適に過ごせそうです。                 広場はJR新今宮駅のすぐ前にあり、駅のプラットホームからはこの広大な空間とその背後にそびえ立つ14階の宿泊棟が望めます。出来た当初は浪速っ子の度肝を抜いたことでしょう。           さて定刻になると、建物のファサードを利用して、カラフルな色合いの花火を模したプロジェクションマッピングが始まります。パフォーマンスが続く10分の間、宿泊客はそれぞれ好きな場所からこの巨大なファサードを見上げて歓声をあげながら、特別な浪速の夜を楽しんでいました。      

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KYOTOGRAPHIE 第10回京都国際写真祭 探訪 

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2022.05.10

  日曜日のお気に入りTV番組「日曜美術館」で紹介されていた京都グラフィー。今回は記念すべき第10回目とのことで、GWの好天の一日、久々の京都で会場めぐりを楽しみました。 まずは八竹庵(旧川崎家住宅)の総合案内所に向かいます。会場となっているのは、武田五一も設計に関与し大正期の数寄屋大工が手掛けたという、庭に開いた和風住宅にライト風の洋館を組み合わせた都市型住宅です。京都市指定有形文化財に登録されており、普段は公開されていないという貴重な建築とコラボする作品展示を楽しみながら、写真祭の概要をチェックです。  

   

参加アーティストにまつわる書籍が並べられています

       

伸びやかに庭に開いた開放的な座敷。とりわけ今の新緑の季節は最高です

   

縁側を利用した作品の展示

   

座敷の畳の上や土壁に、さりげなく自然に、作品が展示されています

      さて、次はイサベル・ムニョス×田中泯×山口源兵衛がコラボする、誉田屋源兵衛 黒蔵、奥座敷の展示へ。こちらも堂々とした京の町屋建築で、玄関を入っていくときからわくわくします。    

こちらも風情のある中庭です

       

田中泯が奄美大島の海中で舞う様をイサベル・ムニョスが撮影しています

   

      上の写真は、2層吹き抜けの円形ギャラリー。元々は大きな緞帳等製作のための大型織機が置かれていた蔵だったそうです。天井のクロス梁を丸柱が支える構造は、ル・コルビジェ設計の上野にある国立西洋美術館のエントランスホールを連想させます。案内係の方のお話を聞きながら順番待ちの後、正面の開いた扉の向こうにある赤い螺旋階段を上って、3階の展示空間に向かいます。    

  螺旋階段を上がり、トップライトからの光が降り注ぐ円形の空間には、3本の帯が展示されています。この帯の一部(写真のプリントのように見える部分)は、イサベル・ムニョスが撮影した写真を和紙にプラチナプリントし、西陣の職人がその和紙の裏にプラチナ箔を張り付けた後、細かく裁断して糸にし、それをまさに一糸乱れぬコンマミリ単位の精度で織り上げて写真を再生する、という手順で創られているそうです。ムニョスの写真が、京都の伝統的手法によって帯の中で再構築されることで、その写真作品が表現する世界がより際立つ・・。山口源兵衛氏のユニークな着想による斬新なコラボレーションの試みです。         見学を終えた皆さんが居なくなった頃に「さあ今のうちですよ!」と仰る案内係の方のお言葉に甘えて、写真撮影をお願いしました。帯は丁度私の背丈ほどのサイズで、このコラボに飛び入りで参加させてもらった気分。    

泥をかぶった後ろ姿は山口源兵衛氏

   

円形のギャラリーのある蔵の外観の見上げです。蔦のからまる「黒蔵」

      こちらは円形の蔵とは対照的な京町屋の土間空間。濃密な展示に熱中した後の心が、しばし癒されたところで、いざ次の展示へ!    

京都文化博物館 別館のエントランス

  三条通りを東に進み、烏丸通を渡って、京都文化博物館 別館のギイ・ブルダンの展示へと向かいました。     上の写真は2階のギャラリーからのワンショットです。らせん状に立ち並んだ壁に、ファッション写真家であるギイ・ブルダンの写真作品が整然と展示されています。    

重厚な様式美と、モダンでカラフルな展示壁の対比

          展示壁には随所にスリットや開口部が設けられていて、よくよく見ると、手前にある作品とスリットの向こう側の作品とが、関連づけられているのが分かります。           ギイ・ブルダンは緻密に構成された作風で知られていますが、まさにその作品とコラボするかのように、よく計算された展示空間の中、色々なシークエンスで彼の作品を楽しむことが出来ます。     様式建築としての場の力、秀逸な展示構成、ギイ・ブルダンの多様な作品が醸し出す明るい知性、等々に直に触れることが出来て、ここでも心地よい時間を過ごすことが出来ました。   これまで外れのない京都グラフィーの展示! 舞台は町屋建築から様式建築まで・・その時代や場を超えて、素敵な展示空間に仕立て上げてしまう自由な感性と懐の深さに、感心することしきりです。       前川国男設計、香山嘉夫改修設計の京都会館(ロームシアター京都)の広場に面して建つ京都市美術館 別館では、ファッション、ポートレート、静物、風景等々多岐に渡って、幅広く質の高い作風で知られる、アーヴィング・ベンの展示です。   京都会館は、現在は蔦屋書店やレストランが入って賑わっていますが、前川国男の代表作の一つにしてモダニズム建築の大傑作、オリジナルを尊重した香山嘉夫の改修設計も見事で、いつ見ても素晴らしいの一言です。上の写真のように、本展の会場である京都市美術館 別館の意匠と並ぶと、やや違和感を感じてしまうのは否めませんが、これもまた京都なのでしょう。       展示空間は、昨年竣工・本年開館した大阪市中之島美術館の設計を手掛けた遠藤克彦氏のデザインで、60度の角度を持った三角形の壁パネルの連続で構成されています。 鋭角な壁で囲まれた場所では、より被写体の持つ特徴が際立つ事、及び照明だけに頼らず自然光を取り入れて撮影するためには露光時間を長くする必要があり、両側を鋭角な壁に囲まれた場では被写体の動きも少なくてすむ、という考えにより、アーヴィング・ベンが撮影の場として好んだシチュエーションだそうで、遠藤克彦氏は展示構成にあたり、そのことに着想を得たそうです。 会場の一画にはグレーの鋭角な壁に囲まれた場が用意されていて、来訪者が自由にポートレートを撮影できるようになっていました。実は私もこの場所で撮影してもらいましたが、まさに被写体の特徴が際立った結果か・・あまり出来栄えがよろしくなかったので、ここでは割愛しています(笑)。                

グレー基調の鋭角な壁で構成された会場風景

   

建築家ル・コルビジェの肖像写真がありました。脚が長く見えて格好いいポーズです!

        この日最後に訪れたのは、嶋臺ギャラリーのマイムーナ・ゲレージの展示です。夕刻になってもこれだけの来訪者の列。日中はもっと多くて一時間近い待ちだったそうです。    

かって造り酒屋でもあったらしい会場の玄関を入ると、大きな井戸が鎮座

    イタリア系セネガル人アーティストであるマイムーナ・ゲレージの独特の世界観を言葉で語るのは私には荷が重いですが、写真表現の枠を超えて、見るものをくぎ付けにするパワーを持った作品群でした。          

ライティングがハートマークになっています。これも演出か?

       

個室では動画も上映。床に座ってゆっくりとゲレージの世界観を堪能

    京都グラフィー、今年初めて訪れましたが、やはり一日で回りきるのは厳しいようです。来年は、しっかり時間を確保して、ぜひまた訪れてみたいと思わせる催しでした。 コンセプト、会場の選定、展示内容と構成、参加アーティスト等々、どれをとっても想像以上にすばらしいもので、今後も京都を起点として、さらにグローバルに発信していける可能性を大いに感じました。関係者の皆さん全員に素直に敬意を表したいと思います。素敵な催しをありがとうございました!  

<了>

     

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2022年2月4日朝日新聞より

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2022.02.04

    朝日新聞より安藤忠雄さんの記事の切り抜き。建築の話ではなく生き方の話。 やはりこの人は只者では無かった。彼の創る建築同様、いやそれにも増して感銘を受けました。 ちょっとした身体の不調でも落ち込んでしまう我が身に、がつんと一発喝を入れられた感じです。

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たねや「ラ・コリーナ近江八幡」探訪

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2021.11.22

  遅ればせながらと言うべきでしょうか、秋の休日に、近江八幡にある和洋菓子のたねやグループのユニークな施設である「ラ・コリーナ」をようやく訪ねることが出来ました。 それも近江八幡に用があり、その帰途に車を走らせていたところ、偶然に「ラ・コリーナ」の看板を見つけ、急遽訪ねることにした次第です。 休日は駐車場に車を停めるのにもたいへんな混雑と聞いていましたが、この日は夕刻だったこともあり、待ち時間もなくすんなり駐車することが出来てラッキーでした。 さて竣工後まもなく7年になる草屋根の姿がどうなっているでしょうか。     言わずと知れた藤森照信さん(何故か、僕ら若輩でも思わずさん付けで呼びたくなる建築家です)の設計になるこの建築、駐車場を下りて一面クマザサが生い茂るアプローチの向こうには、シバに覆われた大屋根だけが見えるメインショップの建物が、背後の八幡山のシルエットをくずすことなく、風景の一部となってたたずんでいました。ショップは結構なボリュームですが、そのスケール感を全く感じさせません。建物の形状もとんがり屋根のてっぺんに一本の植樹(資料によれば高野槙)がされているなど、ユーモラスで親しみやすいものです。     施設全体の構成は上の案内板のような感じです。約11万㎡とされる広大な敷地に、様々なショップや、たねやの本社、農業施設、緑の回廊などがのびのびと配されています。まだまだ今後の建設予定もあるようです。     メインショップに入ってみると、アプローチの牧歌的な風景とは対照的にたいへんな賑わいでした。お目当ての焼き立てバームクーヘンを求めて長蛇の列が出来ていました。         ショップの中は屋根形状がそのまま表れていて、天窓から柔らかい光がふり注いでいます。漆喰塗の天井と天窓にまでちりまべられている黒いものは、木炭を細かく切ったものだそうで、 たねやの職員の方も工事に参加してみんなで仕上げたとの事です。洋菓子等のチョコチップのイメージでしょうか。遊び心のあるユニークなインテリアですね。吹き抜けに面した手摺のデザインなども、手作り風で、決して気取ったところがなく好感が持てます。  

窓辺の内観ディテール

    ショップの1階の一角には、歴史のあるたねやが、これまでたくさんのお菓子をつくってきた木型を綺麗に並べて、ディスプレーされていました。     メインショップを出て右側には、本社のある建物とその横にはカステラのショップが見えてきます。本社内部が見学できなかったのは少し残念。    

    見事に生い茂った草に覆われた外観!まるで日本の国の建物ではないかのようなバナキュラーな建築です。これだけの草屋根を維持管理してゆくのはさぞたいへだろうと想像しますが、まさに建築家の考え方に深く共感し、自分たちの建築として大事に使っていこうという事業主の強い意志に感動を覚えます。

藤森さんは雑誌新建築2015年7月号で本作メインショップ棟の完成時に寄せた文章の中で、自身がそれまで試みた建築緑化の成否について言及し「4勝5敗で負け越している」と素直に告白されています。挑戦することの困難さ、さらにその挑戦を受け止めてくれる事業主の懐の深さに感銘を覚えるエピソードですが、今回たねやの社長さんは、4勝5敗の建築家に仕事を依頼し、建築家を心底信頼して、さらなる新たな挑戦の機会を与えたわけです。

同じ雑誌新建築2017年1月号での藤森さんによれば、たねやの社長さんは、別の設計組織ですでに実施設計や確認申請が完了していた段階にもかかわらず、全て白紙に戻して藤森さんにこの仕事を依頼したとの事。すごい話です。別の設計者から見ればたまったものではありませんね。ちょっとあの国立競技場のザハ・ハディト案の白紙撤回を思い出してしまいます。ザハ・ハディトは生前、その決定に異を唱えていましたが、さて別の設計組織の設計者は出来上がったこの建築を見てどのような思いだったのでしょうか。同業者として聞いてみたい衝動にかられます。

ただいずれにせよ、この建築の完成と草屋根の成功という大金星によって、藤森さんの戦績が5勝5敗の五分になったことは間違いがありません。     工事の着工後に急遽決まったという本社の隣のカステラショップのインテリア。栗の柱が林立しています。  

  田んぼ越しに見える水平線の緑は、回廊の草屋根で、敷地と背後の山並みの間にあってすんなり景観に溶け込んでいます。少し残念なのは写真左側に見えるフードガレージの建物のR屋根が、敷地全体と周囲の景観の中ではやや唐突に見えることです。調査不足で不明ですが、この建物に限っては藤森さんの設計ではないように思えます。 間違っていたらごめんなさい。ただこのフードガレージ、時間が無くてゆっくり見れなかったのですが・・R屋根の大空間の下、ロンドンバスやシトロエンのトラックでマカロンなどを販売していて、ショップとしてはなかなか面白そうな場所でした。周囲のロケーションとはあまり脈路がないとはいえ、事業主の自由な発想で造られているようです。  

  よく見ると下部に車輪がついている移動式のショップ。外装は、藤森さんの指導のもと、職員の皆さんが手作りで仕上げられたとの事です。自分たちでも出来ることは、設計者や工事業者と一緒になって汗を流し、楽しみながら自分たちの施設をつくりあげていく事業主の姿勢は素晴らしいですね。    

  田んぼの廻りをめぐる散策路になっている草屋根の回廊はこんな感じ。シンプルで簡素。天井の垂木とその間の白い漆喰が縞模様に見えます。     マスクをつけたバウムクーヘンの穴の向こうで、自分もマスク姿で記念撮影に応じているのは私の家内の陽子さん。ブログ初登場です!  

  植樹で森をつくり、田畑を耕し、自社農園での共同研究など、「お菓子の素材は自然の恵み(たねやHPより)」と捉え、自然を通して人と人とが繋がる場をつくりたいとの思いでこの広大な施設はつくられているようです。SDGsを含め、とりわけ自然というものを大切に考える中で、単なるお菓子屋さんの枠にとどまらないグローバルな事業主の発想が、藤森建築と共鳴したのでしょう。近江八幡という地から世界へ発信したいという心意気が感じられる素敵な場所でした。既に琵琶湖の観光名所となっていますが、これから、さらに新たな施設が付け加えられることで、今後この場所がどう成長し、どのような情報発信をしてくれるのか・・とても楽しみです。  

<了>

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本福寺(水御堂)探訪

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2021.08.16

  建築後30年となる本福寺(水御堂)。建築に関わる人なら、楕円形の蓮の池の中央を切り裂くように階段が降りていくこの写真が、記憶にある方も多いのではないかと思います。 安藤建築の小品である真言宗のこのユニークな寺院は、淡路島の小高い丘の上にありました。      

寺院の正面から右に折れてアプローチしていくと直線的なコンクリートの壁が立ちはだかります。

    壁に穿たれた開口部より中に入ると、今度は曲面のコンクリート壁が。砂利が敷き詰められた2つの壁の間の空間は、俗から聖へと移動する際の中間領域のような静寂な空間でした。            

曲面の壁に沿ってぐるりと回りこむと、コンクリート製の蓮の池が眼前に現れます。

        吸い込まれるように地下へと続く階段を下りて、いよいよ御堂へと向かいます。 階段を下りると案内係の方が迎えてくれて、ここで拝観料を納めて内部へ。内部の御堂は一転朱塗りの空間で、木の柱のグリッドと格子のスクリーンで外陣と内陣が設えられています。 ここへ来て初めて、ああここはお寺なんだ!と改めて認識させられます。 西側の光庭によって、内陣の後方から午後の光が差し込み、この朱色の空間がさらに荘厳に感じられるよう企図されています。残念ながら御堂内部は撮影禁止でした。      

西側の光庭から差し込む光

      写真では分かりにくいのですが、グリット状の本堂を包む壁は円形、さらにその外側はコンクリート製の正方形の壁が囲んでいて、その上部に楕円形の蓮池が乗っています。単純明快な幾何形態の組み合わせで空間構成する安藤流の手法がここでも見られます。           案内の方の特別のはからいで隣接する和室の集会所も見せていただいたので、感謝の気持ちを込めて記念撮影。天井一杯の巨大な障子を開けると、敷地の緑と、何故かコンクリートの十字架?が目に飛び込んできます。 「30年を経ても綺麗に保たれていますね」と案内の方に声をかけると、「最近安藤さんから頼まれてコンクリートの改修工事をしたんです。費用はぜんぶこっちもちですけどねぇ」 「こっちもち・・そりゃそうでしょ!」と言いたくなるのをグッと呑み込んで(笑)建物への愛情とメンテナンスの大切さを思いながらこの御堂をあとにしました。      

見学を終えて両側の壁に囲われた階段を上ると視界に入ってくるのは青空のみ

      2枚のコンクリートの壁によって日常世界から隔てられた蓮の水盤が育む時の流れを抱合した静寂。水盤の下に密かに構築されているさらなる異空間としての朱塗りの御堂。この場を訪れることで、日頃のあわただく煩雑な日常から段階的に心がリセットされていくのを感じました。 安藤氏の目指した寺院建築とは、ただ寺院を訪れ奥に鎮座する仏様に手を合わせて終わるだけではなく、まさに建築空間そのものが生み出す「時と場の力」によって、より深く聖域(釈迦がいざなう仏の世界)というものを感じ取る中で、人のこころを開放し昇華させるものだったのでしょう。 特にこのコロナ禍の中、ぜひ一息ついて訪れてみる価値のある建築でした。   最後にかってこの建築が掲載されていた雑誌「新建築1992年7月号」より、30年経った今でも特に共感できる安藤氏の言葉を抜粋しておきます。 (安藤氏によれば、蓮は悟りを開いた釈迦の姿を象徴していると言われているそうです)   この御堂も年月が経てば、やがてコンクリートは風化し、蓮池は生い茂る木々で埋もれていく。しかし、夏がやってくればそこには蓮の花が一面に開花し、この場所が聖域であることを人びとの記憶に呼び覚ます。現代建築を犯している刹那主義が一時のきらびやかさだけをひたすら競うのに対して、姿を変えながらも、記憶の中に延々と持続する建築をつくりたいと思う。 (安藤忠雄)  

<2021年8月15日・了>

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旧竹林院の新緑

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2021.05.12

延暦寺の僧侶の隠居所であった里坊の一つ、旧竹林院。ステイホームにも飽きたコロナ禍GWの一日、庭園の新緑を楽しみに、家内と二人密かに、ぶらりと訪れました。       メディアでもよく取り上げられている主屋に置かれた座卓に映りこむ新緑のショットです。座卓は思いのほか小さいものでしたが、直近で慎重にアングルを決めてパチリ。 縁の手摺が上下の新緑の中に浮かんでいるような不思議な写真が撮れました。   主屋に面した庭園は約1,000坪の大きさ。よく手入れされた木々の新緑に映える築山と清流は、この季節らしい清涼感にあふれていました。              

近くの大宮川からひいた清流

            庭園内には茶室が二つ。上の写真の茶室が広間(蓬莱)。下の写真の入母屋造り茅葺の茶室が小間(天の川席)と呼ばれ、こちらは2つの出入口のある珍しい間取りとの事です。        

映りこみ撮影用の小さな座卓が座敷に置かれています

                  連続した座敷と縁のある開放的な主屋から眺める庭園。コロナ禍で来訪者も少なく、優れた日本建築と庭園とのコラボレーションをゆっくりと堪能し、しばし心癒されるひと時を過ごしました。  

<了>

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瀬戸内歴史民俗資料館 探訪

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2020.12.11

  かねてより行ってみたかった瀬戸内海歴史民俗資料館。11月始めの連休、かのGO TO トラベルもささやかに利用して、高松市郊外の高台に建つ知る人ぞ知るこの名建築を訪ねました。1973年完成のこの建物の設計者は、当時香川県建築課の課長だった山本忠司。丹下健三設計の香川県庁舎の建築に関わったこの人物は、瀬戸内海を望む五色台の小高い丘の上に、その地形になじんで地を這うように建つ平屋建築を実現しました。 高低差7メートル。自然を残した中庭を囲んで、8m×8mのユニットを基準としてその倍数のサイズを組み合わせ、各々に分節された展示室が屋外空間と一体となりながら、回廊状に繋がっていく構成は博物館建築としては斬新なものであり、また何より、この五色台という場所に根付いた「地域主義」の建築として秀逸です。       建物正面の全景。杉型枠のコンクリート放しと、石積の外壁との対比で構成された平屋建て。写真左側の方では瀬戸内海への視界が開けています。       建物入口にあるピロティ―。現地の基礎工事の際にダイナマイトで破砕した地場の安山岩を、お城の石を積むかのように、少し傾斜した外壁に張り付けた展示室の壁面が見えます。       玄関ホールに展示されていた模型。中庭を取り囲むように分節した平屋の部屋が配置されている様子がよく分かります。           屋外空間と絡めながら、レベル差のある地形に沿って、何段もの階段で展示室が連結されています。今の時代であれば、人にやさしくあるべきというバリヤーフリーの観点から、絶対に実現することのない建築と言えるでしょう。現在同じ敷地でこう言った建築を構想するとすれば、レベル差を処理するのにスロープを使用したり、あるいはある程度まとまったフラットな空間にまとめたりして、全く違った建築になるのかも知れません。しかしながら、建築が決してそれ自身だけでその存在を主張することはせず、建った後も変わらずその場所と一体化して自然に在り続けている姿は、建築の一つのあり方として、これからも訪れる者に訴えかけていくことでしょう。       岩場や植栽などの自然を残した中庭に配された回遊導線。建物の内外を順次めぐりながら、各室の展示を楽しめるようになっています。       中庭から第一民俗収蔵庫(石張りの部屋)方向を望む。竪樋は設けられておらず、屋上からの雨水はコンクリート製のガーゴイルから自然に流れ落ちるのに任せる設計です。       中庭よりガラス張りの中央展示ホール(現在は閉室中でした)を望む。左手に見える大きな石張りの壁面が一番大きな第一展示室(こちらも閉室中)。       第一収蔵庫の屋上に設けられた展望台に上る階段です。コンクリートの列柱の手摺は神社の玉垣をイメージしたものだそうですが、建物の解説パンフによれば、幾分施工者泣かせであったとか。瀬戸内海の眺望への期待感が高まるアプローチです。形状や大きさ、色調の事なる外壁の石積が、一つ一つ異なる表情を持っていて、思わず見入ってしまいます。           展望台に上ると360度の絶景が広がります。地域の生活の営みの歴史を丁寧に記録し、この場にしっかりと根ざした建物の屋上から眺める瀬戸内海はより印象的でした。機会があれば海側からの遠景もぜひ見てみたいものです。         赤と白の灯台のある少し離れた場所からの風景を目に焼き付けて、この建物を後にしました。中央ホールと第1展示室~第4展示室は令和3年3月19日まで閉室の予定となっていましたが、ぜひまた全館をじっくりと見れるようになれば、再訪したいと思っています。       この日の夜は高松市内に宿泊。同じ山本氏設計の有名な郷土料理の店「まいまい亭」を訪ねました。予約なしで飛び込みだったにもかかわらず、心よく迎え入れてくれた女将さんから、かってこの店に足しげく通ったという流政之やイサムノグチが好んだ料理の説明を聞きながら、美味しく楽しい夜を過ごしました。  

<了>

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こども本の森中之島 探訪

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2020.09.14

  安藤建築の新作、子供のための図書館「こどもの本の森中之島」を見学する機会がありました。コロナ禍の中、来訪者を限定した予約のみの公開です。 中之島公会堂、中之島図書館、東洋陶磁美術館、大阪市役所等の名建築が川沿いに立ち並ぶ大阪を代表する風景の中に出現した、これまでの安藤流から決してぶれることのないコンクリート打放し建築です。  

玄関横に配置された中之島界隈の模型。模型中央のこの図書館だけが木でつくられています

  コンクリート打放しとは、コンクリ―トを打設したそのままの状態で放っておくという意味ですから、元々は仮にジャンカやピンホールがあったとしても、そのあるがままの造る過程の痕跡が残る事も良しとした荒々しい仕上げであったはずなのですが、安藤氏が牽引したとも言えるコンクリート打放し建築の普及と共に、打放しの施工技術も進み、一般の人々にとってのコンクリート打放し建築は、「お洒落で白く綺麗なもの」に変わっていったような気がします。この建物でも、竹中施工の打放しは一部の隙も無いくらい見事な精度と美しい仕上がりを見せてくれます。コンクリートの打設は、周到な準備をした上での一発勝負の集中力を要する作業ですから、ある意味体育会系の建築といえるかも知れません(笑)  

階段を上がったアプローチテラスからアクセス。テラスには安藤氏デザインの「青いりんご」

 

アプローチ反対側のファサード。エントランス廻りは低い本棚として開放的なカーテンウォール

 

建物は3層構成で、2階がエントランスフロアー。奥には本棚に囲まれた3層吹き抜けの空間が広がります。  

2階にある大階段。子供達や親達は思い思いにこの階段に座って、好きな本を楽しむことができる仕掛けです。  

      1階レベル奥にはトップライトから光が差し込む円筒状の空間が。壁面にはプロジェクションマッピングで、本の内容が紹介されています。もっとこの円筒形の空間全体が使われていれば、より迫力がある内容になったと思うのですが、そこが少し残念。     大階段を登った3階の奥は中之島の風景が望める明るい空間で、子供達の付き添いでやってくる両親も楽しめるような本が用意されていました。  

テラスに置かれた青いリンゴを閲覧室から中之島の風景と共に望む

  基本的に壁面全体が本棚。隙間にはスリット窓がランダムに設けられて、光を効果的に取り込んでいます。2階の一画は外に開いた明るいロビーで、一息つける空間となっています。       大階段を中心に各フロアーが俯瞰できる3階廊下からの写真。2階のロビーと最上階3階の閲覧室にある開口部がメリハリの効いた光を取り込みます。    

大階段の下を利用したスペース。小さな子供たちの居場所になりそう

 

テーブルの傍にある本棚の詳細

 

最下階1階の閲覧室。テーブルに座り、ゆっくり落ち着いて本が読めるスペース

  1階へ降りる階段と、吹抜けに斜めにかけられた2階レベルのブリッジは館内の回遊性を高める舞台装置。細かいフラットバーの手摺も綺麗ですが、隙間から小さいものが落下しないか少し心配     この施設は設計者である安藤自身の寄付によって建てられたものです。子供たちの活字離れが深刻化している昨今、本を通して判断力や表現力や創造性、感性を育む場を設けたいとの安藤氏の思いが、大阪の歴史や文化、芸術を直に感じる事のできる中之島の地で実現したのは、素晴らしいことです。 安藤氏のその国内外での豊富な作品の実績は言うまでもありませんが、私個人的には、大阪出身の安藤氏が一建築家の枠を超えて、強烈な社会的発信力と行動力を持った稀有な存在であり続けていることに、何より感服させられます。 この施設を訪れる子供たちが、様々な本に親しみ、この中之島の地で有意義な時間を過ごす事で、元気に次世代を担う頼もしい人材に育ってくれることを、素直に願いたいものです。

(了)

  同じく安藤建築で、この建物の兄貴分とでもいうべき「司馬遼太郎記念館」の探訪記を当blogにアップしていますので、併せてご覧ください。 https://tk-souken.co.jp/wordpress/blog/3720/  

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RE-SOUL清水谷バリューアップリニューアル(オーダー型)

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2020.08.24

  6月の土曜日の午後、RE-SOUL清水谷入居者さんの一人であるKさんから着信。事情があって今の部屋から引っ越したいのだが、RE-SOUL清水谷の他の部屋は空いているか?との事。たまたま2室が空いたところだったので、その旨をお伝えして急遽2室を見てもらうことになりました。 2室共、Kさんが入居いただいていた部屋よりは少し狭いのですが、バルコニーに面してコーナーガラスのあるプラン(2室共)を気に入っていただき、どちらかにぜひ入居したい!ということに。 その後すぐに一つの部屋の方に他からの申し込みが入った事もあり、日当たりの良い7Fの部屋の方を選択することとなりました。  

改修前の写真。左側にクロゼット、右側の壁の向こうに台下冷蔵庫付のミニキッチンがある

  このタイプについては、新たにウォークインクロゼットを設け、W1200のミニキッチンをW1500の2口ガスコンロ(グリル付)付に更新、キッチン横に冷蔵庫置場も用意するというバリューアップ計画があったので、Kさんの了解をいただき、キッチン面材、床のフローリング仕様、壁・天井の素材、照明計画等について要望をお聞きしながら決定していくという新しい試みで、リニューアル工事を進めることになりました。  

改修後のキッチンとウォークインクロゼットの壁(左側)

  Kさんは大阪市内でフラワーショップを営みつつ、商業施設の緑化等も手掛けるガーデンデザイナーで、インテリアにも関心が高く、素材等の決定にあたっては、お互い意見交換をしながら楽しく改修工事を進めることが出来ました。   まずは、納期を要する床材とキッチンから検討を開始。床材についてはいくつかの選択肢がありましたが、ここはオーソドックスにフローリングとし、既存の建具やコンクリート打放し仕上げの柱、梁、天井との相性から、節目が処所に見受けられるワイルドなナラ材を選択。木の風合いを損なわないよう艶を抑えたウレタン塗装としています。もちろん下階への音の伝搬を防止する遮音仕様です。  

      

    この部屋のキッチンは部屋の中にあり、インテリアの一部としてもたいへん重要なので、Kさんとショールームに出かけ、実物サンプルを比較して入念な検討の結果、立体的な木目を表現したウズクリホワイトを選択しました。白さが際立つ清潔な明るさと、うっすらとした木目の存在感が、ナラ材のフローリングや既存の建具等と、ほどよく馴染んでいます。  

      

    次に壁のクロスを決めるにあたり、いくつかの候補をこちらで選び現地の壁に貼り付けてKさんに検討してもらいました。壁の基本はホワイト系のクロスを前提に、一部の壁に使うアクセントクロスの候補もいくつか用意していました。さて多忙な中でKさんに検討いただいた結果の打ち合わせとなり、アクセントはどうしますか?と聞くと、墨色のクロスが良いと言う。なるほど女性としてはかなりシックな案ですね。でどの壁に貼りましょうか?と聞くと、いや全部の壁にお願いします、との返事。全部ですか?廊下の壁天井、水回りも全部? はい、全部が良いと思います。コンクリートにも合うし間接照明にも映えそうだし、何より落ち着いた大人のカフェのような空間で暮らしたいんです、と。 これは白い壁に対して一部の壁にアクセントクロスという既成概念に囚われていた私にとっては目から鱗でした。 なるほど、室内のコンクリート打放しの柱、梁、天井の面積は結構多いのですが、クロスを貼る壁の面積はキッチンのタイルを除くと、さほど多くはありません。コンクリートに白い壁というのは定番ですが、荒々しいコンクリート打放しに対して、墨色の壁を強く対置する案も有りかもしれません。ナラ材のフローリングや既存建具との相性も、メリハリが効いて悪くなさそうです。 かくして洋室の壁はすべて墨色クロスに決定、廊下・水回りゾーンも洋室に合わせて壁、天井とも同じ墨色クロスとなりました。 玄関扉を開けた瞬間に他の部屋とは一味違うシックな空間が広がります。  

      

                        照明については、既存の天井ローゼットから電源を取ってライティングダクトを設け、移動可能なスポットライトを実装。入居者さんの好みで、新たにスポットライトも追加出来るし、また既存のローゼットを利用して好きなシーリングを取り付けることも可能です。こちらは、すんなりと黒のライティングダクトとスポットライトで決まりです。       壁のクロスに続いてもう一つのKさんの要望は、下足入の扉を鏡貼りにして下さい、と言うものでした。これで、1階の住戸用玄関ホールに降りてから、細いステンレスサッシュの縦桟に姿を映して確認する必要がなくなります(笑)との事でした。全面鏡ですが使い勝手を考えてつまみを取り付けるのに少し苦労しましたが(写真はつまみ取付前の状態です)、巾40センチほどの鏡が思った以上の空間の広がりを感じさせてくれます。       さて仕上げはキッチン壁のタイルの選定。こちらも多数の見本を取り寄せ、何回かの打合わせを重ねた結果、紺色のボーダータイルとしました。墨色クロス、ウズクリホワイトのキッチンとシルバー色のレンジフード、ナラのフローリングや既存建具の木の風合い等々とも違和感なく調和しながら、独特な深みと奥行きを感じさせる紺色のボーダータイルは、より落ち着いた印象となるよう縦貼りとし、タイル目地はクロスに合わせたダークグレー色としています。       姉妹や友人たちに見せるとみんな感心してほめてくれます。とKさん。 今回のKさんのように、造る過程を一緒に楽しんでいただくことで入居者さんの満足感も増し、リニューアルを計画する側も、入居予定者さんの具体的な要望やこだわりを聞く時間を楽しみながら、あたかも設計者としてクライアントに接するかのような感覚で、心地良い張り合いを感じて改修工事を進めることが出来ました。 RE-SOUL清水谷のように、ある程度築年数を経た賃貸物件の改修を行うに当たって、他物件との差別化、及び入居者視点からの魅力付け手法の一つとして、今回のような「オーダー型バリューアップリニューアル」に大いに可能性を感じた次第です。   きっかけを作ってくれたKさんに感謝です。    

コーナーガラスのあるバルコニー。Kさんお気に入りのグリーンが設えられる予定

   

コンクリート打放しに墨色の壁、フローリングの木のぬくもりが間接照明に映える

 

(了)

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浦辺鎮太郎の建築 in kurashiki

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2019.12.23

  かっての紡績工場をホテルとして蘇らせ、保存再生建築のさきがけとなった、あの倉敷アイビースクエアーで、「建築家 浦辺鎮太郎の仕事」-倉敷から世界へ、工芸からまちづくりへ-と題する展示会が2019.10.26~12.22まで開催されました。 12月21日(土)倉敷公民館(浦辺作品の一つ)での第5回目のシンポジウムから、22日(日)の展示会最終日に合わせ、急ぎ足で久しぶりの倉敷探訪です。 実はかって、私が建築学科の学生だった頃、たまたまの倉敷旅行でアイビースクエアーを見て感銘を受け、オイルショック後の就職難の時代、叶うならば不遜にも浦辺設計を卒業後の進路にしたいと考え、浦辺氏宛てに入社を打診する手紙をしたためたことがありました。理由は忘れてしまったのですが、結局その手紙を投函することはなく、何とか建設会社への就職が決まったのでしたが、40年を越える時を経ても当時の記憶とほとんど変わらぬ姿のアイビースクエアーに再開することが出来ました。     展覧会はアイビースクエアー敷地の一画、アイビー会館にて開催されていました。壁面のほとんど全てが蔦で覆われた平屋建。         代表的な浦辺作品の写真、図面、及び模型、スケッチ等が天井高のある気持ちのよい空間に整然と展示されていました。       圧巻は模型の数々で、建築学科の学生達が手分けして造った力作ぞろい。浦辺作品はディテールが細やかで形も複雑なものが多いので、学生達は図面を読み込む作業を通して、たいへん勉強になっただろうと思われます。各々の模型の横には担当した学生達のコメントが添えられていました。  

代表作の一つである倉敷国際ホテルの模型(正面側)

 

倉敷市庁舎は駐車場棟、低層棟、シンボリックな塔のある高層棟と続きます。

 

後期作品である神奈川近代文学館。横浜にある3つの展示作品のうちのひとつです。

来年は、倉敷に引き続き、横浜でこの展示会が開催される予定。

      写真は、「黒と白の時代」と呼ばれる初期の作品である倉敷考古館増築。木造の本館に加えて鉄筋コンクリート造の階段室と展示室の新館を増築したもの。中央の階段室部分外壁は本館と同様に平瓦貼りですが、目地については本館のなまこ目地瓦張りとは異なる平目地張りとなっています。そして、それに続く展示室部分については、大胆にもモルタル仕上げのままの外壁にモダンなポツ窓が穿たれ、上部の壁面は何故かアーチ形状、その上に切り妻の置き屋根(木造・スパニッシュ瓦)が架けられています。 よくよく眺めていると地味ではありますが、実に味わい深いデザインで、階段室部分では既存本館との調和を図りながら、展示室部分は、一転本館とは差別化された自由でモダンな表現が模索されています。以後の浦辺建築の出発点となった作品とのことです。             上の写真は倉敷の浦辺建築を代表する作品、倉敷国際ホテルの外観。 外壁とも庇ともつかぬコンクリート打放しの「壁庇」が階毎の水平ラインを形づくっています。 他の浦辺作品にも共通して見られる特徴的な形態です。      

  上の2枚は丹下健三設計の旧倉敷市庁舎です(1枚目の道路右手の建物。2枚目はホール内観)。後に3市の合併により手狭になったため、浦辺設計の手で美術館に改修され現在に至っています。倉敷の街並みの中に丹下流のモダニズム建築が忽然と出現したわけですが、別の敷地での新しい市庁舎の設計にあたって、浦辺が出した答えはさて・・・。               倉敷市庁舎が完成したのは1980年。倉敷の伝統的な建築のあるエリアとは異なる新しい敷地に建っています。シンボリックな展望塔、西洋の古典建築をデフォルメして引用したかのような装飾的な意匠、アーチ形状のレンガ壁等々。上の丹下流モダニズム建築とは対極にあるといっても良い、浦辺流のポストモダンな庁舎建築です。 モダニズム的な視点で見れば、決して洗練された建築とは言えず、一見すると今風の商業施設かと見まがうような外観に、竣工当時はおそらく賛否両論(特に建築界からは)があったのではないでしょうか。休日で内部は見ることが出来ませんでしたが、1階に欧州の伝統的な建築に見られる閉鎖的な市民ホールが備えられています(現在の大阪市役所にも同様の市民ホールがあります)。 ここでの浦辺は倉敷の地域性を受け継ぐというよりは、むしろそこからは離れて、西洋の庁舎建築に規範を見出しながら、象徴的で格式のある市庁舎を目指したとのことです。 丹下の市庁舎も倉敷の地域性を参照しない丹下流モダニズムの建築でしたが、ひょっとしたら浦辺に丹下建築への対抗意識があったのかも知れません。 (浦辺は、そのクラフト的な作風に共通点を見出せる村野藤吾を尊敬していたそうです) そして市民の側から見れば、無味乾燥で画一的な公共建築とは一線を画したこの新しい庁舎、かえって親しみを持って受け入れられたのではないかと思います。 「黒と白の時代」の倉敷考古館とは、明らかに異なる、倉敷アイビースクエアーに端を発したといわれる「白と赤の時代」の代表作品です。   不易流行とは松尾芭蕉の言葉ですが、浦辺も終生この言葉を探求し続けたといいます。三省堂新明解四時熟語辞典から転記すれば、「いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと。また、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質であること。蕉風俳諧(しょうふうはいかい)の理念の一つ」となっていますが、続けて「解釈は諸説ある」とされています。文字自体の意味からすれば、「不易」は変わらないこと、一方で「流行」は時代の変換に応じて変化することであって、芭蕉は互いの相反する言葉をくっつけた上で、「両者は同一である」と説いているので、少し混乱させられてしまいそうですが、「流行に合わせて変化し続けることこそが不易の本質である」と解釈することも出来るのでしょう。 浦辺も営繕技師の時代の工場建築やプレハブ建築に始まり、「黒と白の時代」から「白と赤の時代」を経て作風は大きく変化しています。そして「自分自身をコピーするようなことはしてはならない」と説いていたそうです。浦辺の「不易」とは「時代の要請を見極める柔軟な精神を終生変わらず持ち続けること」であったのでしょうか。その結果として生み出された作品は華麗に変化を遂げながら、時を経た現在においても変わることなく輝きを放っています。   蛇足ですが、この「不易流行」私なりに建築をつくる行為の中で考えると、「時の流れの中で、変わらないもの(変えるべきでないもの・引き継ぐべきもの)と、変わりゆくもの(変化に応じるもの・新しくすべきもの)をしっかり見定めて建築をつくること」と理解しています。 https://tk-souken.co.jp/wordpress/policy/policy_01/    ※この文章を書くにあたって、学芸出版社 「建築家 浦辺鎮太郎の仕事」-松隈洋・笠原一人・西村清是 編著 を参考にさせていただきました。  

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